よっちのホームページ yocchi'sHomePage
NewsHome->Pilot->よっちの操縦法(教育法)

  よっちの操縦法
  はじめに  230
   オリエンテーリング 235
   慣熟飛行 240
   空中操作 245
   離着陸訓練 250
   計器飛行 255
   編隊飛行 260
   航法訓練 (工事中) 265
   教育法 270
   航空医学 275
   低圧訓練 280

教育法


資料:操縦教育教本 鳳分書林出版販売(株)
    目 次
1−1教育の意義
1−1−1 教育の基礎概念
1−1−2 操縦教育の特性
1−1−3 操縦教育の目的
1−1−4 学習の意義
1−1−5 教官の職業倫理
1−1−6 教官の資質
1−1−7 教官教育の必要性
1−1−8 いかにすれば教官は向上しうるか

1−2 操縦教育の原則
1−2−1 動機づけ
1−2−2 主体性
1−2−3 目 的
1−2−4 実 習
1−2−5 素養の把握
1−2−6 安全性

1−3 教官と訓練生の人間関係
1−3−1 マンツーマン教育の特色
1−3−2 公的交際と私的交際
1−3−3 スポーツの意義

1−4 教育の方法
1−4−1 教育の過程
1−4−2 教育計画

1−5 教育技術
1−5−1 教授計画の使用
1−5−2 教具の使用
1−5−3 話し方
1−5−4 訓練生と積極的に接触する
1−5−5 教官にふさわしい服装、態度
1−5−6 判り易く話す
1−5−7 質問の仕方





1−1教育の意義


1−1−1 教育の基礎概念
 教育とは、未成熟な人間の発達を助成する営みである。教官によって意図的・計画的に訓練生にはたらさかけることにより、彼等みずからが諸能力を全面的に発展させ、「人格」形成を目指すことを助成する作用である。
 いいかえれば、教育とは、人間が本来的に有する学習に対する欲求(内的動機づけ)を啓発、 発展させ訓練生の学習を達成させる目的で行なう教官の行動の総称であるともいえる。
 人間がよりよい仕事を達成しようとして、新しい知識・技術および判断力等を習得しようとす る欲求は、人間が本来的に有するものである。
 だから、教官は適時に適切な手投や方法・順序で、訓練生の欲求を啓発(外的動機づけ)し、 学習意欲を喚起し、向上持続させるようにしなければならない。
 一般的に教育は、学校教育、家庭教育および社会教育に区分されるが、操縦教育は、その目的や意図的、組識的教育であるという点で学校教育の一形態である職業技術教育として、位置づけることができる。
 職業技術教育には、職業労働や専門労働に応じた労働手段をあつかう専門技術教育があり、その他の技術教育には、各人が選択する職業のいかんに拘らず、生産技術の一般的基礎を普通教育 において習得しようとする一般技術教育がある。
 これらの教育は、あくまでも形態的目的的分類であり、それらの理念は本質的に変るものではない。一般的に教育には、次のような目的がある。  
@ 未知の知識を発見し、発展させる。  
A 既知の知識を流布する。  
B 習得した知識や事実を実行に移す。 これらの目的は、操縦教官としての業務の基礎でもあり目的でもある。
 教官として種々の問題に当面した場合は、これらの目的に合致する方向で問題解決に当る必要がある。
 教育における教官は主体であり、被教育者たる訓練生は客体である。この主体と客体は、航空機という教材を媒体として、相互に作用する。この相互作用の関係は、直線的ではなく、教官と訓練生、訓練生と航空機、航空機と教官というような三極的相互作用関係が成立する。これらのいづれかに欠陥があれば、その操縦教育は失敗に帰すであろう。
 操縦教育は、教官と訓練生が航空機に乗り組んで、実地に操縦技術や計画判断力を習得することが主たるものであるが、他の教育に比較してより緊密な教官と訓練生の人間関係と同時に航空機の安全の確保が不可欠の要件である。

1−1−2 操縦教育の特性
 操縦教育は、教官と訓練生のマンツーマン方式でしか行ないえず、しかもその主たる教育の場 は、空中で実際に航空機を運航して行なわれ、常に生命の危険が伴うことが特徴である。従って、安全の確保は必須の条件であり、このためには、教官と訓練生は一体となって安全の確保に努めなければならない。
 また、教育期間も長期にわたり、習得すべき内容は広範多岐である。そのために教官と訓練生 には、心身の高度な機能が必要である。
 操縦教育の教室である空域は、広大なスペースと地形や気象条件に恵まれていなければならない。
1 操縦教官
 操縦教育における教官の使命は、訓練生に村して知識や技術の教育を行なうことは勿論のこと、 航空法上航空機運航の責任者として、安全運航を期さなければならない。
 従って、航空専門知識に精通するとともに、すぐれたパーソナリティーを身につけたパイロッ トである必要があり、そのための不断の精進努力が求められる。更に教育のよき運営者として、 教育の方法や教育技術に関心をもち、それらを習得することによって、操縦教育がもっとも効率よく、かつ効果的に運営されるようにすることが肝要である。
 また、教官は単に教育の運営者に止まることなく、訓練生の生活指導にも関心をもって積極的にとりくみ、彼等の健康管理にも十分留意し、教育目的達成のため熱心でなければならない。有能なパイロットが即有能な教官とはなりえない。教育に村する情熱と訓練生に村する愛情をもって、常に教官としてあるべさ資質をもとめて精進努力し、技能の練磨はもとより、豊富な知識の習得と性格の改善、徳性の涵養に努めるのは教官の使命である。
 操縦教育証明実地試験細則(空乗2027号、57.3.31)に定められている指導の方法の科目で次 の事項について、口述試験を行なうようになっている。  
@ 訓練生の教育進度の認識  
A 訓練生の素質、能力の分析  
B 教育手段としての称賛と叱責の効果的な使用法  
C 訓練生の理解度の判定要領  
D 訓練生の精神的状態及び肉体的状態の判断の方法  
E 訓練生が精神的及び肉体的に正常でない場合の訓練に及ぼす影響
 これらのことは、教育法の一部にすぎない。
 従って、操縦教官を志すパイロットは、教育原理論や教育心理学等に関して自学自習するとともに、先輩教官達から実践的教育論についても積極的に学ばねばならない。
 このように操縦教官は、操縦技能はもとより広範な知識が必要であるので不断の努力を怠って はならない。
2 訓練生
 訓練生は、職業パイロットを目指す場合と趣味やスポーツとしてパイロットを志望する場合があるが、いづれにしろ訓練生は自分の目的に合致する操縦技能証明を取得したいという目的意識をもっている。この目的意識は、実際の教育に際して内的動機づけとして、重視して最大限に助長されなければならない。
 訓練生の心身の状態は、地上での生活に適応しており、空中での諸活動は初めての経験であり、訓練生の諸能力を大きく制限する。このため地上では予測できないような心理状態に陥り、肉体的にも航空機の振動、騒音、加速度、低圧、低酸素や乱気流等によって悪影響を受けるので、教官はこの点を十分考慮して教育を行なう必要がある。教官がこの点に対する配慮が足りないと、 訓練生は不安感や恐怖心をもつようになり、最悪の場合は進度停止や進度逆行の現象すらある。 教官は訓練生に対して、先行的に不安感や恐怖心をもたないように指導することが重要である。 いったん訓練生が不安感や恐怖心をもってしまうと、これを除去するためには多大の時間と労力が必要である。
 また、訓練生に村する教育目標の設定にあたっては、自信喪失や自己過信に陥るような目標を 設定することなく、訓練生の進度に適合した目標を設定しなければならない。
 訓練生の習得すべき知識は、広範な分野におよぶ。しかも教育期間は無制限ではない。教官は訓練生の学習効果をあげるために、課目の範囲、学習の順序や程度等適切な学習指導が必要である。訓練生が取得しようとする技能証明の種類によって、学習の程度の深浅はあるが、その範囲は共通である。その課目を列挙すると次のとおりである。
 航空工学、航空力学、航空気象、航空英語、電気、通信、機械、航空医学、操縦学、航空交通管制、航法学、航空計器、航空法規、航空心理学、人間工学、熱力学等  これらの課目は、それぞれが独立した学問分野であり、短期間にすべてを完全にマスターする ことは不可能である。そこで、教官は訓練生にパイロットとして、航空機の運航に必要な事項を 精選して呈示し、彼等の学習を援助すべきである。
 また、操縦教育においては、エリミネーションがあることが特徴でもあるし、訓練生は非常な関心をもっている。訓練生がいかに熱心であっても、身体的、精神的あるいは技量的理由等によって、エリミネートを余儀なくされる場合がある。他人の生命や財産に関与するパイロットには、 一定基準以上の知的能力、身体的能力、精神的能力および操縦技量が必要なことは当然である。 その意味から、この適者生存の原則は、操縦教育においては、避け難い問題である。訓練生は、 常に自分の意思に反してエリミネートされるのではないかという潜在的不安感をもっているので、 教官はその点を充分考慮して教育をすべきであり、かりにも学習指導の道具としてエリミネート を使ってはならない。
3 航空機
 操縦教育は、航空機を使って空中で行なわれる。航空機は空中を飛行するための道具である以上、常時重力に従って地面に落下する危険性を含んでいる。したがって操縦教育は安全運航がその前提条件である。そのために教官と訓練生は何にも優先し一致協力して安全運航を期さなければならない。教官は、安全運航の最終的責任者であるが、訓練に際しては、見張りの要領や範囲 の分担、他機を発見したとさの報告要領、緊急状態こ陥った場合の任務分担や操作手順、要領等 について、常に詳細に説明し、訓練生が習性化するまで、反復訓練を行なわなければならない。
 安全は重視しすざることはないことを教官は肝に銘じておくべきである。訓練生の安全意識を 高揚し、操縦教育を成功させるためには、実際に緊急状態を現出したり、模擬緊急状態を呈示して教育を行なう必要がある。しかし、教官は熱心さのあまり遵守すべき限界を超えて訓練生に認識させようとしてはならない。例えば、模擬エンジン停止で不時着訓練をするようなとき、最低安全高度を無視して進入を継続してはならない。このような教官の安全軽視の姿勢は、そのまま訓練生に反映するとともに、それまでの安全教育は無価値なものになる。この種の教育では、教官は諸法規や基準を考慮して十分な安全率を見込む必要がある。
 また、操縦教育で使用される航空機は、軽飛行機からジェット機まで多種多様であるが、いづれの場合も教官と訓練生は一対一であり、同時に二人以上の訓練生を教育することは不可能である。いわゆるマンツーマンであり、操縦教育の特性の一つである。このことは理想的な形であるとともに危険性も含んでいるので、教官は細心の注意が必要である。それだけ教官の人間性がおよぼす影響は大きく、特に訓練生との良好な人間関係が望まれるゆえんである。
 航空機は、いわば密室であり教官と訓練生が主従関係となり、とかく徒弟的人間関係に陥りやすい環境にある。しかも第三者の関知できない環境が、教官の横暴や独善を誘発する危険性があるので、教官は常に冷静に自己反省をしなければならない。つぎに、航空機を使用するために莫大な費用が必要であるということも、操縦教育の特徴である。航空機そのものも非常に高価であるが、その運航費も莫大である。
 航空大学校を例にとると、単発機(FA−200、60時間)、(BE−33、100時間)合計160時間、軽双発機(C−90A、75時間)総計235時間を教育するのに、訓練生一人あたりの必要経費は、概算であるが約5000万円になる。このように多大の経費と施設を必要とするので、おのづと操縦教育は良好な条件で効果ある教育をしなければならない。従って、単に気象状態が運用限界や安全基準 に適合しているからといって、飛行を決定してはならない。
 教官は、飛行の可否を決定する場合、最も重視しなければならないことは、教育効果が充分期待できるか否かである。そのためには、気象条件が良好であり、訓練生の進度状況を考慮したうえで、十分な教育効果が期待でさる状態で飛行をすべさである。訓練生は、運用限界内であるから飛行できるという判断をする傾向があるので注意を要する。教官があやまって、進度状況に適合しない状態で教育すると、教育効果が期待できないばかりか、逆効果となり訓練生の動機づけと安全を大さく損なう結果となる。あくまでも訓練生自身の能力で訓練生自身が飛行するのであって、決して教官自身が飛行するのではないことを銘記せよ。
 操縦教育の教室ともゆうべき空域は、地形的に広大で、気象条件が良好である必要がある。現在では、訓練空域が自衝隊と民間に区分して指定されているが、その立地条件は必らずしも完璧ではない。山岳地帯や海上を含んだ空域が多く、空港から比較的遠距離にある場合が多い。そこで、教官はこれらの空域を効率よく使用するために、気象の特性、空域の特性を熟知し、緊急事態に村する処置もその態様に応じて適切な処置がでさるよう万全の準備をする必要がある。そのためには、教官はあらゆる緊急事態に対応できるように、綿密な計画をもっていなければならない。
 一般に訓練空域は、空港に進入する航空機の経路や出発する航空機の経路および航空路等の航空交通管制圏や航空交通管制区外に設定されているため、空港から離れている。したがって空港から空域までの往復の時間も有効に活用できるように計画すべきである。
 空域における課目の実施にあたっては、単位時間あたりの訓練密度をあげるために、上層風や地形の特性を考慮して、無駄な時間を最小限にし、一定時間で最大の効果をあげるよう指導しなければならない。このような空域の管理は、初期の段階では教官自身で行なうべきだが、逐次訓練生自身に行なわせるようにした方がよい。

1−1−3 操縦教育の目的
 訓練生は、自己の目的に適合した知識技能を習得し、操縦技能証明を取得することを直接の目的にしている。しかし、操縦教育の目的は、理想的パイロットの育成であり、単なる知識や技能の付与がその目的ではない。つまり、技能証明を取得させることは、当面の教育目標であり、目的ではない。
 この意味から、操縦技能の習得は理想的パイロットとして必要不可欠な一要件であるが、これがすべてではなく、操縦教育はパイロットとして必要な資質の基礎を付与し、理想的パイロットとしての人格形成を目指さなければならない。したがって、教官は単に操縦技能の付与にのみ専念することなく、常に理想的パイロットとしての人格形成を希求する教育方針を堅持するととも に、みずからも一人のパイロットとして、知識や技能の習得はもとより人格の向上に努めなければならない。
 教育は「人間を人間にする働きである。」といわれるように、素材である人間をあるべき姿の人間に育てあげることである。このことは操縦技能を習得するだけでは達成されない。いわば、 操縦技能の習得のための訓練は、あくまでも手段であり目的ではないことを銘記すべきであろう。 すなわち、訓練生が理想的パイロットになるような基礎を付与することが操縦教育で重視されなければならない。
 しかし、操縦教育の目的とする人格形成すなわちパイロットの理想像は、社会環境や時代経過とともに変動するものであり、もとより普遍的に規定されることが望ましいが、理論的考察によって規定することは困難である。
 従って、パイロットの理想像も歴史的に変化して現在に至っているはずであり、今後も逐次変化するであろう。われわれパイロットは、歴史的視点に立って立派なパイロットといわれる先輩諸氏に学ぶことも大切である。この意味でも教官は、訓練生にとってよき師であるとともに、よき先輩として率先して模範とならなければならない。
 有能なパイロットであるまえによき社会人であれ、と屡々いわれるがパイロットとして有能であるパイロットは、当然よき社会人であるはずであるし、またそうなければならない。すなわち社会人として求められる資質もパイロットに必要な資質に含まれる。
 すでに述べたように、パイロットの理想像を明確に規定することは困難であるが、次のように 表現することは可能である。
 すなわち、よきパイロットとは知的能力、身体的能力、精神的能力および操縦能力をバランスよく習得したパイロットということができる。知的能力は航空に関する専門知識は勿論のこと社会常識や一般教養についても兼ね備えていなければならない。身体的能力は特別な筋力や運動能力は必要ないが、身体検査基準に定められた諸基準以上のバランスある能力が必要である。精神的能力は安定した精神状態を常時維持することができるとともに、緊急事態に直面しても冷静沈着な判断ができなければならない。
 操縦能力は職業的専門知識技能であり、他の職種にもそれぞれ同様な専門知識技能が必要である。操縦能力は特殊な能力を必要とするのではなく、通常の人間であれば若干の教育時間の長短はあっても、真撃な努力によって十分習得可能であることを強調したい。操縦能力は特殊なものであり、並の人間には達成できないなどと思い上った考えは、厳に憤しむ必要がある。

1−1−4 学習の意義
1 学習の本質
 J・ドルヒによれば、「学習は、環境との対決において習得される合目的的な態度、行動規制の変容過程である。」といっている。換言すれば、生活体と環境の相互作用によって、生活体の態度や行動に価値的変容の生ずる過程である。
 学習は、経験概念や陶冶概念と同義語である。そして学習の対概念が教授=学習させること、 と現わされる。すなわち、学習とは人がよりよい仕事を達成しょうとして新しい知識、技術、習慣および判断力等を習得する過程である。人が知識を習得しただけでは、何の役にもたたない。
 従って、学習の主体は習得した知識を基礎として技術や習慣および判断力を養成する経験的実習である。また、その習得した技術や習慣および判断力等が個人や社会の利益に寄与しなければ、 それは意味をなさないし、学習とはいわない。
 教官は、訓練生の学習に対して全責任を有し、訓練生の不出来の原因をまず自分自身に求め、 何が原因で訓練生の学習が阻害されたかを分析検討して、その結果を教育計画に反映させなければならない。学習の主体はあくまでも訓練生であり、教官はその学習を助長するように援助すべさ立場である。教官の一方的教授が学習ではないことを銘記し、教官は訓練生の学習指導にあたらなければならない。

2 学習はいかにして行なわれるか
 人は、五感を通じて学習する。人は、視覚、聴覚、触覚、味覚および嗅覚の作用により、周囲の事物や事象と接触することによって、情報を収集し新しい知識を習得したり、習慣をあらためたり、考え方や態度を変更させたりする原因となる反応をおこすのである。
 操縦教育においても、訓練生の五感を有効適切に刺激することは、教育効果に大きな好影響を あたえる。感覚器官によって知覚された情報は、人脳に伝達され、そこで既知の知識や経験と比較検討されて、最もよい反応を導き出し、好ましい動作が発生する。このように訓練生は、既知の知識や経験を基礎として判別をし行動するので、教官は彼等の知識や経験を知ることが重要である。若し教官が訓練生の知識や経験を知らずに、あまりにもかけ離れたことや関連性の乏しい 呈示の仕方をしても、教育の効果は期待でさない。教官はこれらのことを熟知したうえで、利用 できる多くの感覚をいかに刺激するかを常に考えなければならない。
 知覚するということは、単に耳で音声をきいたり、目で景色を見ることではなく、その意味や内容を知る作用である。この知覚された情報を訓練生の心に植えつけ、かつ記憶させなければならない。それらは、訓練生自身によって更に同化されることにより、彼等自身の知識や経験とな って蓄積され、それ後の行動の基礎となりうるのである。
 教官は、訓練生が確実に知識や経験を同化し、自分のものとするように指導しなければならないが、そのためには先に述べたように、訓練生の知識や経験の程度や内容、すなわち訓練生の素養を十分把握したうえで、適切な手段、方法および順序で彼等の素養に関連させて教育すること が肝要である。同化された知識や経験は、訓練生のその後の学習や行動の基礎となるので、記憶 されていなければ何の価値もない。訓練生に知識を記憶させるためには、まず理解させなければ ならないし行動を身につけさせるためには、習性化するまで反復実習を繰り返すことが重要であろう。
 そこで、教官は、訓練生がいかにすれば記憶するか、また、いかにすれば忘却しないかを常に考えあらゆる方策を講じ、訓練生が知識や経験を完全に理解し、行動を習性化でさるように指導しなければならない。
3 効果的学習の条件
 訓練生が、学習したことを完全に記憶し、その後の学習や行動に反映されなければ、学習は無価値なものとなる。学習の内容が完全に理解され記憶されるためには、教官は次のことに留意する必要がある。  
@ 適切な動機づけがなされている。  
A 内容が完全こ理解されている。  
B 習性化するまで反復実習する。
 特に操縦教育においては、間違った知識やあいまいな知識に基づく判断や行動は、安全を損な う危険性が大さいので、十分な注意が必要である。
(1)適切な動機づけ   
 適切な動機づけによって始まる教育では、訓練生は、その課目に大きな興味をもち学習意欲を向上させる。訓練生が学習する課目に興味をもち学習意欲を助長し発展させることに成功すれば、 その教育はなかば成功したといっても過言ではない。なぜならば、動機づけは教育の前提となる重要な条件だからである。訓練生が課目を理解し完全に自分のものにするためには、彼等自身におう盛な学習意欲がなければならない。意欲がない訓練生に強制的に教授しても効果は期待できない。動機づけに成功すれば、彼等自身が主動的に学習するし記憶も促進される。
 教官は、課目の重要性を強調したり、実際の行動や判断にどのように役に立つかを説明したりして、よい動機づけをしなければならない。
(2)課目内容の理解
 学習の結果、学習した課目の内容が完全に理解されていなければ、訓練生は記憶することはでない。たとえ理解されないまま記憶されていても、その知識や経験はまったく同一条件への対応が機械的にできるかも知れないが、応用することは不可能である。応用ができない知識や経験の記憶は無価値である。なぜなら、全く同じ状態はほとんどありえないからである。
 理解させることは、訓練生の記憶を促進し、応用の基礎として、既知の知識や経験がその後の学習を発展させる作用がある。操縦教育では、知識は行動に直結しており、まちがった知識や中途半端な知識は禁物である。
 したがって、教官は訓練生がいつでも、どこでも自由自在に使えるような知識や経験を記憶させるように教育しなければならない。
(3)実習の反復
 操縦教育は、実習の連続である。実習は、訓練生が誤って理解していることや、あいまいに理解していることがらを発見する場でもある。完全な知識があっても、操縦や運航に発揮され、類似の状況に応用されなければ、その知識は価値がない。また実習は訓練生の理解を深める効果が ある。実習のともなわない知識は、訓練生の概念に止まり実感として身につくものとはならない。
 実習は知識を基磋として、新しい技術に熟練させるためのものであるが、同時に実習を反復繰 り返すことによって習性化させることができる。
 訓練生がもっている知識が実際の操縦に発揮されたことを実感として彼等自身が味わうことは、 よい動機づけにもなり、また習性化させることにより、訓練生の身体的記憶として永久に記憶される。実習は経験の場でもある。操縦教育では、地上でいくら説明しても実際に飛行をしなければ理解できないことがたくさんある。その意味からも実習の重要性を教官は認識すべきである。
 これまで述べた三つのことが完全に行なわれれば、訓練生は効果的に学習できるはずである。 このうち一つでも完全でない場合は、訓練生は学習効果があがらなかったり、学習した知識や経験を忘却してしまい、その教育は価値のないものになってしまう。
4 学習を阻害する要因
 F.A.AのInstructor’s Hand Bookによると学習を阻害する要因として、次の諸点が指摘されている。  
@ 訓練生が不公平感をもつこと。  
A 興味のわく訓練内容までの辛棒強さに欠けること。  
B 心配事があって、学習に村する興味をそう失すること。  
C 身体の不調、病気または疲労。  
D 不熱心な教育に起因する無感動。  
E 恐怖・不安感または臆病。
 これらについては、特に説明は要しないと考えるが、この他に教官と訓練生の人間関係の不調和があげられる。また訓練生の心身の不調が学習を阻害する要因のほとんどである。実際の操縦教育において、学習を阻害する要因で顕著なものは、劣等感である。教官は、常に訓練生が何に起因して劣等感をもったかを、観察していることが大切である。教官の注意が特定の訓練生に集中したり、訓練生の言動や学習をけなしたりしてはいけない。特に身体的欠陥を矯正するような 場合は、教官の一言で訓練生は劣等感に陥るので、細心の注意が必要である。
 訓練生の学習に対する努力が、教官や組織または仲間によって、適正に認められ評価されていない場合は、学習意欲は大きく後退し、学習効果は期待できない。また、教育目標の設定にあたっては、訓練生の真面目な努力によって到達しうる内容のものでなければならない。
 だからこそ訓練生の学習意欲は、それが達成されたときに大きく躍進する。
 到達不可能な教育目標の設定は、訓練生に自分の努力不足や能力不足を感じさせ、劣等意識を植えつける。ひいては訓練生のスランプや学習の放棄の原因ともなるので、教官は細心の注意を払う必要がある。教育目標は、訓練生の進度と能力にマッチした到達可能な目標とするのがよい。
 教官は、訓練生の学習を阻害する原因を教官自身でつくらないように注意するとともに訓練生の心身の状態を詳細に観察しなければならない。そのためには、授業のときだけでなく、課外でもつとめて訓練生との接触を密にする必要がある。
5 学習の進度傾向
 学習の進度とは、学習の結果、訓練生の進歩の度合をあらわすものであり、習得の状況を示すものである。
 学習の進度傾向は、一定不変のものではなく、訓練生の個人差が大さい。具体的な個人差の例として、連続的に上昇を示す場合や、不連続ではあるが段階的に上昇を示す場合または波動的に上昇を示す場合等が一般的である。これらいづれの場合も、ともに上昇勾配を示すことが必要である。特異な例として、学習進度が一時的に停止したり、あるいは、後退したりすることが認められることがさある。このような場合は、教官は学習を阻害する原因が何であるかを疑ってみる必要がある。この現象は、大さな飛躍のための前兆であることも多いので、教官はあせらず冷静に対処することである。
 学習の進度傾向は、一般的に下図のような緩徐な上昇曲線を示す。

省略

 例えていえば、学習の進度傾向は川の流れのようなものである。初期の投階では、学習の内容 も狭く浅いが、急流のように荒く急激な流れを示すのが一般的である。川の流れは時間とともに、 下流になればなるほど水深は深くなり水量も増してゆく。逐次流速が緩徐になるように、進度傾 向も緩徐になり、内容も広く深くなってゆく。
 この上昇勾配が緩徐になり、進度勾配が横這状態になるところを、学習の高原現象とよぶ。上図に示した学習の進度傾向曲線は、あくまでも1つの代表的例であるので、この通りにならない からといって、特別心配する必要はない。この進度傾向や高原現象は、離着陸や空中操作等の個々の課目においても見られるが、教育過程全般を通じても適用できる。
 すなわち、進度傾向は時間的にも期間的にも同じような状態を示す。
 一方、高原現象は、すでに学習した知識や技術と新たに学習した内容との関連づけが適切に機能していないときに生ずることがあり、通常いわれるスランプではない。その後、学習の結果習得した知識や技術を関連づけ、総合的に駆使できるようになると、必然的に進度傾向は、ふたたびゆるやかな上昇をはじめる。
 一時的な進度の中だるみや、偶発的中だるみは、一般的にどの訓練生にも起こりうるもので、全体の学習に悪影響はなく自然の現象であり心配する必要はない。小さな進度傾向の停滞は、む しろ次の段階への飛躍のための潜伏期間のようなもので、日常的にみられるが教官はあせること なく、慎重にかつ気長に教育を継続すればよい。
 訓練生の進度が時としてまったく見られないか、または後退傾向を示す現象があらわれることがあるが、最も問題となるのはこのような状態からなかなか脱出することができない場合である。 われわれは、この現象をスランプと呼んでいる。
 スランプは、複雑な課目や総合課目において起こりやすい傾向がある。そして、この原因は、 誤った知識の記憶、課目の目的の理解不足、学習意欲の停滞または欠如、不安感や恐怖心、心配事や身体の不調、教官との人間関係の不調和などが単一かまたは複合的に複雑に関係しているこ とが考えられる。教官は、訓練生がスランプに陥ることのないよう観察し、兆候を早期に発見して適切な指導を行なうことが必要である。しかし、いったんスランプに陥ったときは、訓練生ともよく話合ってその原因を究明して、教官と訓練生が相互に協力して脱出を図らなければならな い。
 万一、訓練生がスランプに陥ってしまったら次のことを試みるとよい。  
@ 原因の究明に努める。  
A 教育方法、内容の再検討および新たな方向から違った方法で教育を試みる。  
B 先輩教官や同僚教官の援助をえる。  
C 訓練生相互の話合い。  
D スランプに陥る前の課目に戻ってみる。
 まず、訓練生がスランプに陥った原因を究明する。スランプに陥る前に必らず進度傾向の変化 が見られるはずであるから、そのときの課目内容や心身状態を詳細に検討して、原因の究明に努 める。もし、原因が明らかになったら、スランプの原因を排除するか、改善をはかることにより、 スランプからの脱出を試みる。原因が明確にならない場合は、それまでの教育方法や内容を再検 討し、異なった方向から違った方法で教育を試みる必要がある。同じ方向や方法で教育をくり返 すと、訓練生はますます深刻なスランプに陥ってゆく傾向があるので、教官は注意しなければな らない。
 自分以外の教官に援助してもらうことによって、訓練生がスランプから脱出することもあるので、自分だけで解決しょうとせず、先輩や同僚教官に相談し、解決方法を見出す努力をするとともに、直接指導を依頼することも考えなければならない。また、スランプに陥った訓練生は、簡単なことを難しく考え過ぎたり、教官の説明を誤って理解している場合がある。このようなときに、教官が同じことをくり返し説明するよりは、同一レベルで訓練生相互の話し合いによる方が 問題を簡単に解決できる場分がある。
 これまでに述べたことを試みても、訓練生がスランプから脱出しないときは、進度が正常であった課目まで、教育内容を戻してそこから新たに出直すべきである。とにかく、スランプからの脱出をはかるためには、教官と訓練と密接な協力が必要であり、絶対にあせってはならない。  
6 知覚と洞察の関係  
人は五感によって知覚する。感覚器官よって感じられた刺激は、各神経系を通じて大脳に導かれ、既知の知識や経験と照合されて処理され知覚する。すなわち、知覚するということは内容を理解し認識することによって成立するものであり、単に物が網膜に写っているとか、鼓膜が振動したというような物理的現象を意味するものではない。
 すべての教育は、何らかの方法で感覚器官を刺激することによって行なわれる。操縦教育もこの例外ではない。教官は同時に、できるだけ多くの感覚器官に刺激をあたえることによって、訓練生により強い印象をうえつけることができる。従って、教育の効果をあげるために、教観は常に創意工夫をこらして、多くの感覚にうったえるようにしなければならない。また訓練生が知覚 したことの正しい意味や内容を適時適切に説明し、理解させ記憶させることも、教官の重要な仕 事である。
 この知覚作用は、身体状態、精神状態および環境条件によって大きく変動する。例えば、教官には明瞭にさこえていることが、訓練生にはまったくきこえていないことは、よくあることであり、教官は訓練生が何故きこえなかったのかを知ることが大切である。
 特に操縦教育の環境は、騒音、振動、低圧、低酸素、速度および加速度等生理的に知覚作用を阻害する要因がたくさんあるので、教官はこれらのことを念頭におく必要がある。
 訓練生の知覚作用に影響する要因として、次のことがあげられる(FAA,Instructor’s Hand  Bookによる)。  
@ 身体の有機的組織としての働き  
A 欲求と要求  
B 目標と価値感  
C 自意識  
D 知覚の時期と機会  
E 恐怖感
 以上6項目の細部を説明すると次のとおりである。  
(1)身体の有機的組織としての働き
 パイロットは、五感すべての感覚器官が一定基準以上の機能を有しなければならない。パイロットの身体要件は、すべてについて厳しい条件が課せられているが、感覚器官の機能は特に厳しい条件が要求されている。知覚されたことが、適切に処理され、正しい計画判断にもとづいて、 行動に移行するためには、知覚機能とともに身体的運動機能を具備することはパイロットに不可欠の要件である。したがって、知覚機能に欠陥のある人は、パイロットとして飛行することはで さない。教官は訓練生の身体の有機的組織機能が障害をおこしたり、低下して所定の基準に合致 しなくなったら直ちに教育を中止しなければならない。
(2)欲求と要求
 人は自然の欲求として、自己の身体の働きを維持し増進しょうとするところがある。特に、人の知覚作用は、この欲求の大小により影響される。
 また、人は自己防衛本能があり、自分の肉体に損傷を安ける可能性のあることや、不快感、不安感および恐怖感が予測されることには、自然に忌避する働きがある。すなわち、人は快適性を求め、身体機能の維持増進をしたいという要求を常時もっている。教官が訓練生に対して、物質的か精神的かに拘らず、何らかの形の報酬を与えることも、知覚作用を増進する働きがある。例えば、訓練生の操縦の進歩を認めてやり、賞賛することによって、訓練生の学習意欲は向上する。
 教官は、訓練生の学習をうまく援助するために、人間の自己防衛性等の欲求と要求を正しく理解し活用することによって、訓練生の知覚能力を進歩向上させるような方法を見出す必要がある。 教官はまちがっても、訓練生が忌避反応を示すような言動はしてはならない。
(3)目標と価値感
 訓練生は、自己の学習の目標をもっているものである。知覚作用は、訓練生自身の目標に合致する方向で発揮される傾向がある。したがって、教官が教育目標としていることと、訓練生の目標がかけ離れていると、訓練生の知覚作用は十分機能しえない。教官は教育目標を呈示し、訓練生との意志統一をはかるべきである。
 また、訓練生は、それぞれ過去の学習や経験からえた自分なりの信念や価値感を有するもので ある。訓練生の信念や価値感は、知覚するときの物差であることを教官は認識すべさである。例えば、教育開始まもない訓練生は、機首を上げて出力を大きく減ずることに何らの危険を感じな い。
 一方、教官は訓練生のもっている人生観、哲学的見解、信念や価値感を熟知して、知覚を高めるような教育方法を選訳しなければならない。かりにも、画一的、強制注入方式の教育に陥らな いよう注意すべきである。
(4)自意識
 人は自分自身をどのように見ているかということが、学習において重要な意味をもつ。自己否定的意識や恐怖感のように、自分に不利益や不快感、危険性が予測されることには、自然に忌避反応を示し、動機づけを大きく阻害するとともに、知覚作用を抑制する。その結果、訓練生は教官の説明や指摘に村し虚心に受け入れることを拒否するようになるし、知覚されたことを適切に実際の行動に移しえず、誤った行動を誘発するおそれがある。積極的に自己意識を評価している訓練生は、教育された知識や技術を虚心に受け入れ、適切に行動し容易に自分自身の経験として蓄積することができる。
(5)知覚の時期と機会  
 訓練生が正しく知覚するためには、時間と機会が必要である。何かを学習するには、既知の知識や経験と新しく学習した知識や経験を関連させ照合して知覚するための時間が必要である。  
 訓練生はそれまでに学習の経験がなくても、もしやってみようとすれば、最初から飛行機を失速させることはできる。しかし、これは失速を学習したとはいえない。訓練生が正常飛行の経験があったとしても、失速を知覚することを上達させるためには、失速に伴う新しい感覚と経験を関連づけるための時間と実習が必要である。  
 先に述べたような操縦教育の特性上、教官は教育時間を最も効果的に運用し、最低の時間で最大の知覚を訓練生に体得させるように創意工夫しなければならない。適切に計画された訓練シラパスを使用しても、知覚を得るように時期と機会について考慮しなければ、それを生かすことはできない。  
(6)恐怖感  
 訓練生が恐怖感をもつと、訓練生の知覚領域を狭くし、知覚作用に悪い影響を及ぼす。例えば訓練生が恐怖に直面すると、恐怖の発生源や対象物に注意が集中する傾向がある。そのため訓練生の知覚能力は抑制され、教育効果は期待できない。教官は訓練生が快適な状態でリラックスして教育を受けられるよう配慮しなければならない。  
 恐怖や心配事による気掛かりは、訓練生の知覚作用に肉体的な悪影響をおよぼす。学習することは心理的問題であって理論的な問題ではない。訓練生にとって不利な報告書を出したり、エリミネートするぞとおどかすことは、一見理論的のようだが、効果のあがる心理的なやり方ではない。  
 教官は、自己の教育計画を理論的に策定し、訓練生に教育する場合はそれを心理的に応用しなければならない。  
 訓練生の行動は、知覚作用に支えられており、その知覚作用は前述の要因によって影響を受けることを認識し、教官は教育の目的を達成するために障害となるいかなる言動もさけて、学習を指導することが肝要である。  
 そこで、洞察とは何かについて考えて見たい。洞察とは、二つ以上の知覚を関連づけ、分類して、自己の見通しをもつことである。訓練生の洞察的行動を養成するのは、教官の重要な任務である。洞察することに先立って試行錯誤の段階があるが、その偶然的試行で洞察を補助することがある。試行から洞察への転換は、学習進度傾向曲線の急激な上昇としてあらわれ、主観的には “あっ、そうだ!わかった!”という感じを伴って体験される。
 教官は、新しい知識や経験をくわしく説明し、訓練生の完全な理解をえなければならない。学習する各課目が他の課目といかなる関連性を有するか、また教育計画の中での位置づけについても十分理解させ、教育目的との関連性を明確に理解させることが重要である。
 つまり、知覚の関連性を強調することは、学習の効率化を促すことである。
7 習性と転移
 洞察力の育成は、知覚を発展させ、正しい認識と試行籍誤を経て達成される。学習を洞察に連結させることは、動作習性の形および一つの動作から習得した習性を、もっと複雑なその後の行動に転移させるための一過程である。
 操縦教育の初期の段階では、訓練生が経験不足や知識不足から、単純な操作について内容や理論を理解せずに、単なる動作習性として機槻的に習得する危険性がある。
 転移とは、訓練生が習得した動作習性を、その後学習する課目に移行させることであり、積極的転移と消極的転移がある。
 積極的転移とは、訓練生が習得した習性がその後の課目に有効に発揮されることをいい、消極的転移とは、その後の課目に有害な作用をおよぼすかあるいは有益な作用をおよぼさないことを いう。
 例えば、進入形態の低速飛行で訓練生が習得した動作習性が、最初の着陸進人に際して、有効に発揮されることが積極的転移である。
 また、消極的転移の例としては、水平飛行の課目で機首が下がったとき、エレベーターを使用 して修正する動作習性が、50度の急旋回で機首が下がった場合、不用意にエレベーターを使用して旋転を速くするような、まちがった習性の転移のことである。
 教官は、操縦教育のカリキュラムを作成する場合は、シラバスにもとづいて、習得した各課目における習性が、次の課目にうまく転移するように組立てることが重要である。訓練生が正しい習性を身につけないうちに、つぎの課目に進めてはならない。教官は、訓練生が正しい習性を習得するまで、辛棒づよく正しい操作を強調し続けなければならない。
 訓練生に正しい習性を習得させるためには、何か一つの操作をしょうとするとき、必ず考えて、計画を立ててから操作するように指導するのがよい。訓練生の傾向として、知覚したことを即操作に移行するといった短絡した行動が多く見られる。これでは正しい習性は習得されない。例えば、水平直線飛行中、高度が上っていることを発見した訓練生は、単に機槻的に操縦桿を押すだけの操作をしがちである。次の瞬間、今度は機首が下りすぎて、どうしてよいか自分でわからなくなる。高度が上っている場合、その原因はいろいろ考えられる。それらはエンジン出力の過大、速度オーバー、トリム・セット不良、気流の影響等いろいろの原因が単一か複合されているはずである。訓練生自身が原因を見極め、正しい修正操作を計画して行動するように指導しなければならない。そういう指導をねばり強く継続することによって、訓練生は正しい操作要領の習性を習得することがでさるのである。

1−1−5 教官の職業倫理
 操縦教官には、他の聴業人と同じように教官としてあるべき姿、従うべき道理がある。操縦教育の特性上、教官と訓練生は非常に緊密な関係にあるので、教官の一挙手一投足は訓練生に直接的に多大の影響をおよぼす。
 教官があるべき姿や、従うべき道理から逸脱したり、それに欠けるような場合は、教官に値するプロフェッショナルとはいえない。そのような教官はやがては、社会から厳しく非難され、指弾されて葬り去られるであろう。
 操縦教官は、一般のパイロットに比較して、数多くの責任を負っている。すなわち、パイロッ トと教官という二重のプロとしての見識と人間性、操縦技能を身につけていなければならない。 従って、パイロットとしての職業倫理と教官としての職業倫理を併せ備えなければならない。
1 愛と真実の倫理
 教官が愛と真実に欠けたとき、または、憎悪と不信のなかでは教育作用は何一つ機能しえない。
 教官が教育するにあたって、その前提となる不可欠の要件は、訓練生の信頼と尊敬をかち得、 かつこれを維持することである。そのためには、教官は訓練生のすべての面にわたって、重大な関心と愛情をもつとともに、教育目的や課目についての豊富な知識、操縦技能および教育法に精通する必要がある。
 操縦教育にかぎらず、すべての教育において、この愛と真実は不可欠であり、このことについ て、スイスの哲学者ヘバリーン(paul Haberlin1878〜1960)の言葉を紹介する。 「教官と学習者との人間関係は、いわば、一つの<風土>を形成しており、それの良し悪しが すべての教育方法の努力の効果を左右する。それは、気象学的風土の良し悪しが、農夫に村して、 最後の決め手となるのとまったく同じことである。
 こうした人間の相互関係が、真に教育的であるためには、まず第1に教官のまったき真実が必要である。不真実は、たとえそれが巧妙に隠蔽されたとしても、学習者によって感知され、かれらの抵抗と反感を誘発する。それ故、教官はあるがままに、自己の責任において対処すべさであって、内心で賛同もしていない何らかの<権威>の代弁者として、対処すべさではない。
 みずから誤ることのない権威、手本、模範としてでもなく、まさしく、みずからの人間性にお いて対処すべきである。
 教官と学習者との相互関係は、学習者が教官によって、監視されていると感ずるのではなく、 どのような事情においても、自分が教官によって保護されていると感ずる場合にのみ教育的であ る。
 こうした教官の姿は、愛というただ一つの言葉で表現することができる。それも愛という言葉 が感傷的に理解されない場合のことである。愛のみが好都合な風土を醸成し、愛のみが両者の関係と教育を稔りあるものにする。
 愛はあらゆる教育方法のアルファーでありオメガである。」(塚田 毅著「教育心理学」によ る。)
2 犠牲的精神
 すでに述べたように、教官は訓練生に村して絶対的愛と真実が必要である。しかし、このことは文章や言葉で表現することは容易であるが、現実にはなかなか困難である。すなわち愛を実現させるためには、教官の犠牲的な気持がなければならない。愛情を表現することは、何らかの犠牲がともない、訓練生に奉仕する側面がある。教官は当然自分の生活をもっているわけで、そこにはおのずと限界が存在する。いわば親が子供に対する愛情をもつことと本質的に差異はない。 このことは、教官になることを決めたときから、真剣に考えるべき問題である。教官という職業は、一般的にいわれる労働を提供して報酬をえること以外に直接的な報酬のない仕事があること は事実である。すなわち授業時間外の教官と訓練生の交流のためには、教官の犠牲的精神がなく てはならない。
 まず第一に自己の利益追及をすることを自分の人生観としている人は、教官を志望すべきではない。教官が自己の利益追及や保身を第一義的に考えるようでは、訓練生はその犠牲になる危険性が大であり、教育とよぶに値しない結果になる。

1−1−6 教官の資質
 教官が備えなければならない資質はたくさんあり、いづれも簡単に身につけることはできない。 教官を志す人は、まず必要な資質を知り不断の努力をしなければならない。よき教官とは、必要 な資質を知りかつそのことに向かって絶えず努力する教官であるともいえる。以下そのおもなも のについて述べる。
1 授業の運営能力
 教官の主たる仕事は、授業の場で行なわれる。
 従って、教官に必要な資質の第1は、授業のよき運営者であることである。授業のよき運営者とは、訓練生の積極的学習を助成し、無限の可能性を有する訓練生の能力を、効率よく発展させることである。このように、無限の可能性を有する訓練生の能力を発揮させ助長して大いなる発展をさせるためには、教官は愛と真実の上によき授業の運営者として機能しなければならない。
 資質の第2は、教官が訓練生みずからの能力を開発し発展させるような援助者となることである。授業のよき援助者とは、訓練生の自発的学習を促すことであり、そこに授業の本来性がある。 これらのことは、一朝一夕に達成されるようなものではない。教官は教官であることをやめるまで、修練を積んでゆかなければならない。教官としての道は遠大であり、極めることは至難であるが、たゆまぬ努力によって、今日よりは明日へ向上することは可能である。
2 知識と操縦枝能
 教官は教育の中心的存在である。教官の良し悪しは、教育の成否に多大の影響をおよぼす。豊富な知識と卓抜な操縦技能は、操縦教官の必頬要件である。教官といえども、日々の精進努力なくして、よい教官にはなりえない。したがって、よい教官を育てるためには、意図的かつ計画的 に研修の機会があたえられなければならない。
 教官は、課目についての知識と操縦技能を身につけなければならないが、もし、教官が知識や技能に若干でも不安があれば、その教育を完全には行ないえない。
 次に教官は、自分が習得した知識や技能を訓練生にいかに分かり易く説明し理解させることができるかという能力が必要である。教官自身がいかに豊富な知識や卓抜な技能をもっていても、訓練生に教授する能力に精通していなければ、宝のもちぐされになってしまう。
 教官の習得すべさ知識は、単に航空関係の専門知識に限らず、広く一般教養課目を含め訓練生のあらゆることについて、指導できる能力をもつことが望ましい。操縦技能については、現行の技能証明制度では、計器飛行証明がなくても、教育証明をもっていれば操縦教育は可能である。 しかし、操縦士実地試験実施細則(空乗 第2002号 57.3.31)にも定められているように、訓 練環境・教育効果および航空機の安全運航の立場から簡単な計器飛行の技能が必要である。教官は計器飛行証明を有することが有効であるし、望ましいが、有しない場合も、標準計器のすべてについて、その作動原理や特性についての知識をもち、それらを駆使して空港へ安全に帰投できる程度の気象克服能力は、ぜひ身につけておかなければならない。
 また、教官は、離着陸や空中操作等の各課目を教育する場合も、航空機の運航について十分な知識技能をもって、現在教育している離着陸や空中操作が、どういう目的で存在するか、その意義と運航全般のなかでの位置づけを他の課目と関連させて、正しく評価し解釈して、訓練生に分かり易く順序だてて最も適切な方法で説明できることが重要である。往々にして、教官は航空機の操縦技術の教育に専念しがちであるが、操縦技術は航空機の運航の一要素であることを忘れてはならない。航空機の運航は次のように図式化でさる。

 航空機の運行=航空機の操縦+フライト・マネージメント

 教官は航空機の運航のすべてについて、完全な知識と技能および経験を有する必要があるが、 それらがあれば、教育の準備と勉強がなくてもよい教育ができると考えるのは、大きな誤りであ る。課目内容に習熟することは勿論であるが、その内容を順序だて、計画的かつ効率的に教育するかという要領について、周到に準備しなければならない。
 また、訓練生からの質問に対しては、教官は明快に解答できなければならないが、もし自分が知らないことを質問されたときは、教官は素直に知らないことを認めるべきである。
 そのようなとき、教官が威信を保とうとして、逆に質問した訓練生の不勉強を指摘して叱責するようなことは、絶対に避けなければならない。そのようなことをすると、訓練生は教官が知ら ないことを簡単に見抜さ、教官の威信を失墜させるし、教官に対する信頼と尊敬を失し、教育の理念を根本から破壊することになる。
 訓練生が質問するということは、おう盛な学習意欲がある証拠であり、理解されつつある好ましいことであるので、この学習意欲を持続させるためにも、意欲を認めて称讃してやることが大切である。
 その場で解答できないことは、教官は知らないことを素直に認めたうえで、調べて解答することを約束し、訓練生にも自習してくるように指示する。そして、次の授業の機会に教官と訓練生がそれぞれ勉強した結果をもちより、共に協力して正しい解答を求めるような教育の姿勢が好結 果をもたらすことになる。
 このように、教官自身の不断の勉強と常に真実を求める姿こそ、訓練生にとって活きた模範となるのであり、教官の不勉強、不熱心、無気力、感情的言動のもとではよい訓練生は育つべくもない。
3 教育方法と教育技術
 教育方法とは教育の行なわれる方式をいい、学習目的達成の方法であり、これには配列や構成または手順等が含まれる。したがって、教育方法と教育技術とは本質的に異なるものであって、教育技術とは、教育手順の各段階における各種行動をいう。例えば、質問の技術や教具使用の技術がこれにあたる。
 教官が教育方法や教育技術等の教育法全般にわたる豊富な知識と経験を有することは、よりよい教育を行なうための必須要件である。教育法は常識の応用であるが、教育法に習熟していなければ、この常識の応用も不可能になる。特に教育技術に習熟するためには、このことに関する知識を有しているだけで達成できるものではなく、数多くの実習を通じて熟練しなければならない。
 教官が有している知識、技能、経験等を計画的かつ効率的に訓練生に伝達するためには、教官はその手段や方法を身につけていなければならない。特に操縦教官は、この種の専門教育を受け ていないのが一般的であり、自分でそのことを十分認識して、習得に努めることが肝要である。
 操縦教育は、密室で行なわれて他の教官の教育を観察する機会が少なく、教官は独善的になりやすい傾向がある。常に自己の教育を反省し、訓練生にも積極的に教育法について意見を求め参考にすべきである。  また、他の先輩教官や同僚教官の教育を観察することも意義あることであり、努めてオブザー ブすることを勧めたい。
 しかし、他人の物真似ではよい教育はできない。教官はそれぞれ顔が違うように、それぞれ異なる個性を有しているので、ある教官がよい成果をおさめたからといって、そのまま真似てもよい結果が得られるとは限らない。他の教官のよいところを取捨選択し、自分に活用できるか否かを判断したうえで、自分の個性に合った自分流の教育のやり方を編み出す必要がある。
4 教官の人間性
 よりよい教育は、教官と訓練生のよりよい人間関係が基礎となる。そして、よりよい人間関係をつくるためには、教官はよい性格でなければならない。
 教育は、教官と訓練生との共同活動であり、相互信頼感と相手の立場を尊重する気持が大切である。教官も訓練生もそれぞれの異なった価値感をもち、人生観や思想および個性等さまざまである。これらの差異を克服し、良好な人間関係を確立するためには、お互いに相手を尊重し、好感をもって緊密な相互交流に努めることから始めるべさである。すべての人間は、美点と欠点を併せもっているものであり、相手の欠点ばかりをあげて批判するようでは、よい人間関係は生れない。相互に美点を認めあい、欠点を補いあう気持ちをもつことが重要である。
 これらを達成するためには、教官は自己の性格傾向を分析し、教育に好ましい影響をおよぼす性格を助長し、更に向上させるとともに、悪い影響をおよぼす性格は常日頃注意し、改善するよう努めるべきである。性格を改善することは、簡単にできるものではないが、不可能ではない。改善すべき性格のうちの一つに努力を集中することによって、大きな変化をもたらすことができるのである。
 教育に好影響を与える教官の性格としては、次のようなことが考えられる。
 明朗性、不撓不屈、誠実心、熱意、気力、温和、冷静沈着、信念、友愛心、勇気など。
 つぎに、教官の人間性で重要なことは、リーダーシップである。教官が訓練生に関するあらゆる問題を巧みにかつ円滑に処理するためには、リーダーシップが必要である。訓練生は教育される課目以外のことについても、教官の感化力によって多くのことを学ぶものである。教官のリーダーシップは、課目の教育のためにも勿論必要であるが、教官がよりよいリーダーであれば、単に課目に必要な知識や技能を付与することができるのみならず、訓練生の習慣、態度および考え方等人間性の改善向上にも資することができるのである。
 また、教官は課目の教授に止まることなく、訓練生の生活全般にも関心をもち、彼等の悩み事や心配事等すべてのことに、気軽に相談に応じ誠意と愛情をもって、適切な指導ができなければならない。従って、教官は単なる教育業務だけでなく、よき先輩よきリーダーとして教育的業務全般に関心をもつことが必要である。すなわち、教官は訓練生のよき保護者、理解者でなくてはならない。かりにも、教官と訓練生の間を権利義務関係とか命令服従関係のような人間関係と理解するようなことがあってはならない。
 教官は訓練生の学習を助成する立場であることを銘記し、訓練生の自主的・自発的学習を促すようにしなければならず、画一主義や強制注入主義に陥り彼等の自主性を損なうようなことがあってはならない。

1−1−7 教官教育の必要性
 教官はその職業的特性から、教育力量の増強のため、常時、自主的・自発的研究と人格の高揚を不断に展開するとともに、教官の相互交流による教育能力の向上に努めなければならない。
 航空にまったく無知な訓練生を教育する場合は、教官が訓練生におよぼす影響は特に大さく、訓練生の将来の方向を決するほどである。したがって、教官は責任の重大さを十分認識し、不断の教官相互の切磋琢磨は勿論のこと、常に自己研鑽に努めなければならない。  これを達成する教官教育の一つの方法として、各種研修がある。教官研修は、組織的・段階的に制度化され、定期的・計画的に行なわれることが望ましい。
 この研修は、教官にとっては当然の権利であるとともに義務でもある。研修の機会が与えられたとき、自己の意志でこれを放棄するような教官は、教官たる資格はない。
 研修の内容は、航空に関する知識や技能全般の習得練磨は当然のことであるが、直接的に航空に関係しないようにみえるあらゆる分野にも関心をもって積極的に研修すべきである。芸術、政治、経済、哲学および文学等さまざまな教養を身につけることは、それが直接操縦教育に役立つとはいえないかも知れない。しかし、教官の巾広い教養を基礎とした主義、思想および考え方は、 訓練生によい影響をおよぼす筈である。
 また、教官は常に向上心を持ち、不断に努力することが肝要である。教官が努力をせず単に自分のもっている知識や技術を切り売りするような教育のやり方では、有能なパイロットは育つべくもない。訓練生は教官の鏡であり、訓練生に不満足な点があれば、それは教官自身の姿だと思 うべきである。したがって、訓練生が不勉強だったり、向上しないときは、彼等を責める前に教官自身が向上を目指して日々勉強しているかを反省しなければならない。いたずらに訓練生を責め、すべての原因は訓練生にあるがごとき言動は慎むべきである。訓練生に勉強させようと考える前に、教官が勉強せよ。そうすれば訓練生は自然に勉強するようになる。
 また、教えることは教わることであるといわれるように、教官が訓練生に学ぶこともたくさん ある。教官は訓練生によって育てられるという側面があることも事実である。教官はあらゆる場所と機会をとらえて、貪欲に学ぼうとする態度が必要である。

1−1−8 いかにすれば教官は向上しうるか
 優秀な教官に必要な要件は、先天的に固定して備わっているものではなく、みずからの努力によって、その開発を図るべきものである。教官自身の自己開発の姿は、そのこと自体よい模範となり訓練生を啓発する。
 単に経験を積むことによって、よい教官になれるものではない。教官は不断に努力し進歩しなければならない。教官は専門知識の習得や技能の練磨に心掛けることは勿論のこと、教育に関する本や参考書等をよく読んで研究するとともに、自分の性格を分析評価し、その長所短所を知り、短所については一つづつ地道に改善しなければならない。
 教官は自己の教育能力の評価反省に努めなければならないが、自己を客観的に評価することはなかなか困難である。そこで、他人すなわち他の教官や訓練生の批評や指摘を謙虚に受入れるとともに、そういう批評や指摘が教官の向上のために必要であることを認識すべきである。そのためには、教官相互や対訓練生との良好な人間関係が必要である。
 教官もそれぞれ異なった個性をもっているが、自己の個性をみだりに変えようとしても簡単に変えうるものではなく、かえって労多くして功少ない結果になる。自己の個性を保持し、その長所短所を熟知したうえで、自分なりの教育方法を発見することに努める方がよい。
 単に優秀な教官を模倣するだけでは、必ずしもよい結果は期待でさないし、かえって弊害をまねくことが多いので注意しなければならない。
 教官が訓練生にとる態度は、あくまでも訓練生の自主的学習の助成者であることを忘れず、まったき愛をもって臨むことが大切である。
 要するに、教官は教官自身の自己評価を正しくし、訓練生の個性や進度状況を考慮して、教育計画を立て、教育に熱意をもって臨むならば、必らず有能な教官になりうるであろう。また、訓練生が、教育法や教官の態度等について、何を期待しているかとか、不満に思っていることは何かを自由に教官に意見を述べる機会をつくるとともに、教官はその種の意見を十分参考にし、自己改善に努めるべきである。
 以上述べて来たことをまとめると、教官に必要なことは、次のようになる。
 @ 課目について十分な知識と技能をもつこと。
 A 知識や接能をいかに効果的に訓練生に伝えるか、その方法や技術に習熟すること。
 B 数官の性格と人間性の向上に努めること。
 C リーダーシップをもって訓練生を導くこと。
 D 教官の態度の重要性を認識すること。

1−2 操縦教育の原則
 操縦教育の原則とは、操縦教育において守らなければならない通則であり、原理である。教官はこの原則を熟知したうえで、訓練生の学習を指導し、教育計画を作成しなければならない。 これらの原則は、最も効果的な教育のための基本的あり方を示すものである。

1−2−1 動機づけ
 動機とは、人が行動するための基礎となる心の状態をいい、動機づけとは、訓練生の学習意欲 を喚起することであり、動機づけがなくては、十分な学習は行ない得ない。
 訓練生はパイロットになりたいという意志を明確にもっているものである。このように学習者 が本来的にもっているものを内的動機づけ(動因)と呼ぶ。
 これに対して、外的環境すなわち教官や社会等による刺激によって起こる動機づけがある。こ れを外的動機づけ(誘因)と呼ぶ。
 この両者は相関連するものであり、教官は常に外的動機づけが内的動機づけに連結するよう配慮しなければならない。動機づけは、自己の報酬の達成によって得られる。この報酬には次のようなものがある。

報酬 物質的報酬 金銭、物
精神的報酬 個人的安楽
他人から認められる
目標達成による満足感
エリート意識

 訓練生は、内的動機づけとして物質的報酬を期待しているかも知れないが、操縦教育の現場では、この報酬は存在しない。したがって教官は訓練生が精神的報酬を得るように指導し、そのことによって、学習意欲を持続させなければならない。
 動機づけについて、重要な要素のいくつかを述べる。
 まず、第1に「興味」の問題である。興味の喚起は効果的学習のために有効である。訓練生が興味をもつことは、直接動機づけに結びつくことである。
 興味とは、一定の対象と連結する自発的・積極的な関心であり態度であって、感情的には快感や期待感を伴なう。課目に対する興味と課目進度や学習効果の間には、相関関係がある。
 すなわち、訓練生が大きな興味をもてば、課目進度は急勾配で上昇し、学習効果は大さくなる。この興味の問題は、訓練生個々の精神作用であって、心理学的にもその精神構造はいまだに明らかにされていない。しかし、彼等がいかなる対象に興味を誘発するかは、経験的にある程度明らかである。それは、興味は訓練生の知識や能力によって規定されるということである。すなわち、自己の能力外の問題や、全然知識のない問題に対しては、興味は起こらない。また、全く自由に訓練生自身が処理しうる問題や完全に知り尽くしている問題や事象に関しては、興味をもたない。訓練生の知識や能力の程度に対して困難すぎる、あるいは容易すぎる問題に対しても興味は誘発しない。
 未解決ではあるが、訓練生みずからの能力や知識で解決の可能性のある問題や、知ってはいるがまだ未知の部分が残っている問題の克服について興味をもつものである。
 つぎに「賞と罰」の問題である。訓練生相互に序列をつけて、競争心を喚起することも、広義にはこの賞と罰にあたる。  
これらは、人間の本来的要求である社会的承認の要求に基づく、優越欲や競争心を媒介として学習行動を促進し、あるいは苦痛の回避要求に基づく学習効果の向上を意図したものである。しかし、優越欲そのものは、本来学習意欲ではなく、賞は手投であって、賞や優越そのものが目的になるようなことは、厳にこれを慎しまなければならない。
 特に罰によって訓練生の学習行動を維持しょうとすることは、消極的な側面から事に処する態度や性格を形成する危険性があり、堆奨できない。 賞罰は、外部的刺激であり、反復されるとその効果はほとんどなくなる。特に罰の場合この傾 向は大である。 賞罰の問題について、アメリカのハーロック(Hurlock.E.B)の実験結果を紹介する(下表参 照)。

 小学校4年と6年の児童を等質の4群に分けて、加算作業をさせその学習効果と成績の平均点を5日間の日変化として観察した結果である。その過程で第1群は、努力や成績を称賛し(称賛群)、第2群は、不注意や不成績を叱貴し(叱責群)、第3群はほめも叱りもしないで放置(不問群)、他に比較のために統制群を設けてそれぞれ別室で学習させた。その結果、表の通り称賛群は逐日向上したが、叱責群の進度は2日日に上がりその後下降し、不問群と統制群には成績の向上は認められなかった。 異種の誘因の下に学習した4群の加算テストの平均点(塚田毅著「教育心理学」による)

日・群 第1日 第2日 第3日 第4日 第5日
統制群 11.8 12.3 11.6 10.50 11.4
称賛群 11.8 16.6 18.8 18.8 20.2
叱責群 11.8 16.6 14.3 13.3 14.2
不問群 11.8 14.2 13.3 12.9 12.4


  この実験結果で明らかなように、叱責による学習効果は称賛にはるかにおよばない。操縦教育では、その密室性や教官と訓練生の人間関係の緊密度から、この傾向は更に大きくなる。したがって、教官は称賛による動機づけを重視し、叱責は最小限にしなければならない。操縦教育において、教官は訓練生の内的動機づけを重視し、効果的動機づけを行なうために、教育開始に先立って、課目の種類や構成等をがカリキュラムやシラバスを基礎にして説明し、教育計画の大綱を理解させなければならない。更に、訓練生の目的達成のための段階的目標や過程にっいても明示し、かつ教官の教育方針を認識させる必要がある。すなわち、訓練生のパイロットになりたいという内的動機づけを達成させるために、教官自身がいかに計画しているかについて、訓練生に説明し認識の統一をはかるべきである。これらのことによって、訓練生みずからが、教育計画の大綱や教官の考え方、意図等をは握することは、効果的動機づけの第1歩である。教官は各課日の到達目標を明確に呈示して、訓練生がそれを達成したときは、ともによろこび、訓練生の努力を認めて称賛すべさである。すなわち、訓練生の満足感を助長することが有効な動機づけになる。教官が設定する到達目標は、高すぎて達成不可能であったり、低すざて努力せず容易に到達でさるようであってはならない。到達目標が高すぎて、訓練生が努力しても達成でさないと、彼等は劣等感に陥り、自己の能力を過小評価し、学習意欲をそう失し、スランプの原因ともなる。
 それかといって、到達目標が低く過ぎ、努力せずあまりに容易に達成されると、彼等は自己の能力を過大評価し、自信過剰に陥って動機づけを阻害する結果となる。
 したがって、教官が到達目標を設定するにあたっては、訓練生個々人の能力や課目進度状況に適合した内容であり、努力することにより到達できる目標にすべきである。そのためには、画一的到達目標にならないようにし、訓練生個々人にマッチさせることが大切である。  教官は訓練生に課目の必要性や目的を十分理解させ、常時、訓練生自身の内的動機づけに関連させて、刺激を継続しなければならない。初期の段階の訓練生に、いきなり乱気流中を飛行させたり、悪気象条件下の飛行や課目進度に適合しない困難な課目を強制したり、暴力をふるったりすることは、動機づけに大きな障害となるので、教官は慎重に対処しなければならない。
 人間は常に快適なことを求めるものである。操縦教育は安全かつ快適で楽しいものであることを訓練生に実感させ、航空機に対する安心感と操縦は真面目に努力すれば、誰にでも習得することができることを認識させ、自信をもたせるように指導すべきである。
 操縦教育が訓練生にとっで快適で楽しいものであれば、それだけでも動機づけの効果は十分期待できる。したがって、教官はこれと相反することは、極力避けるよう細心の注意が必要である。 また、前述のように、訓練生の学習行動やその結果に対して、教官は大いに称賛するように努めるべきである。称賛は最大の動機づけである。不満足な点や失敗を探して叱責することは、訓練生の動機づけに逆行することになる。教官は訓練生が常に教官や仲間から認められたい欲求をもっていることを考え、これを最大限に活用すべきである。もし、訓練生が失敗したり、到達目標に達することができなかった場合、単に叱責するだけでは、何ら教育効果を期待できない。失敗の原因がどこにあるか、解決するための方策は何かを、教官は明示すべきである。かりにも現象や結果のみを見て、「そんなこともできないのか。」とか「そんなこともわからないのか。」 というような発言をしてはいけない。教官は訓練生の能力の無限性を信じて教育すべきである。
 さらに称賛することは、訓練生が次の段階に進んだ目標にチャレンジしょうとする意欲を喚起する効果がある。教官が訓練生の動機づけに成功すれば、その教育は大半を達したといえる。教官はいたずらに、失敗や不満足な点を叱責するばかりではなく、訓練生が成功したことや努力を認めて杯賛し、次の目標達成のための指標を明示すべきである。

1−2−2 主体性
 教官は教育運営上の主体であり、訓練生の学習を指導、統制、誘導する責任がある。例えていえば、教育は川であるといえる。川は流れる水がその主体であり、水が訓練生であるし、両岸の堤防の働きが教官の使命であるといえる。したがって、教官は訓練生の自主自発的学習を第1義に尊重し、過干渉は慎むべきである。訓練生が自主的に主体性をもって学習することができるならば、彼等の学習意欲をおう盛にするとともに、パイロットに必要な資質の1つでもある自分で情報を収集処理し、判断をして計画を立て行動するという習性パターンの養成にも役に立つ。教官が過度の干渉をすると、訓練生は主体性をもって計画判断ができなくなるばかりでなく、教官に対して依頼心をもつようになる。また、動機づけのところでも述べたが、教官の叱責が過度になると、訓練生は教官の顔色や反応をうかがって行動しようとする傾向があり、学習効果はほとんど期待でさない。
 訓練生の主体的学習を促すことは、放任することではなく、彼等の主体的学習を促すように、教官は学習環境を整えることであることを錦記すべきである。

1−2−3 目 的
 訓練生が課目を学習するとさ、どんな目的のためにその課目が必要かを十分理解せずに学習しても、その学習は意味のないものになってしまう。そのような学習では、訓練生の習得した成果を次の段階の課目に十分発揮できない。操縦訓練はシラパスを基礎として、段階的にブロック積のように計画されているから、基礎的課目が所望の到達目標に達しないのに、次のステップに進んでも訓練の効果はないといってよい。どんな小さな操作や手順にしても、目的や理由があるも、のである。勿論、各課目にはそれぞれ個有の目的があり、それらは教育の目的に関連し合致していなければならない。したがって、教官は個々の課目の目的を訓練生に明示しなければならないし、その目的が教育の目的といかなる関係にあるかを常に説明し、訓練生の完全な理解のうえで教育が行われなければ、訓練の価値は半減する。
 訓練生が目的を理解しないままで、単にその課目を習得しても、その後の課目にその効果を応用したり活用することはでさないであろう。たとえば、空中操作は空中操作として単独に習得しても、その成果が離着陸に反映されなければ意味がない。なぜならば、空中操作として訓練する低速飛行や急旋回等は、航空機運航の重要な部分である離着陸や航法に応用されてはじめて価値があるものだからである。すなわち、空中操作の目的は、その航空機の操縦性、性能、飛行特性および各システムの運用等に習熟することを直接の目的とするが、その成果は離着陸や航法で応用されなければ意味をなさない。そのためには教官は、常に終極的教育目標と各課日の目的との関連性を念頭において、訓練生の学習を指導するとともに、努力指向の方向を明示でさなければならない。

1−2−4 実 習
 「経験は、最良の教師である。」といわれるように、いかに豊富な知識を習得していても、それを理解し実際に応用して行動してみなければ、知識がどのように行動に投立つかはわからない。また実際に、知識を実習の場で発揮してはじめて、知識の理解は深まる。
 操縦教育の主要部分は、訓練生みずからが行なう訓練、いわゆる実習である。知識は行動や技術の基礎であり、行動や技術の習得には、実習が不可欠である。特にパイロットに必要な判断力や計画力の養成および操縦技術の習得には、実習なくしては達成することは不可能である。
 十分な実習を経て習得された知識、技術、計画力および判断力等は、訓練生の身につき記憶を促進する効果がある。また実習は、正しい方法と手順で適切に行われなければならない。もし方法が悪かったり、手順が誤っていれば、訓練生は誤った内容を習得し、これを矯正するためには、長い期間と労力を必要とする。
 教官はこれらに加えて、教育課目の応用ということを訓練生に強調しておかなければならない。このためには教育内容が、実際にどのように活用されるかについて、訓練生に具体的な説明をすべきである。更に、実習は現実的でなくてはならない。教育の方法が現実的で、かつ実用性に直結したものであればあるほど、教育効果は増大する。このようなことを踏まえれば、常に教官は全ての教育を実際に適用できる方法で教育しなければならない、ということにつきる。
 また、課目内容が訓練生の受入能力を越えている場合は、訓練生にとって、その課目は非現実的なものとなり、教育効果は期待できない。教官は、
@課目内容が常に実際の運航に応用できる こと、
A課目内容が常に実用性のあるものという2点を強調しつつ、実習させることが重要である。

1−2−5 素養の把握
 人は自己の過去の経験を基礎にして、新しい知識や技術を学習するものである。新しい経験の価値判断は、過去の経験が基礎となる。
 したがつて、教官は訓練生の生活歴、教育歴、課目進度状況、知識の習得状況および航空経歴等全般的な素養を熟知して、教育計画を作成しなければならない。訓練生の生活歴、教育歴、課目進度状況をは握するためには、諸記録や身上書を綿密に調査するとよい。
知識の習得状況を知るためには、教官は教育計画作成に先立って、教育に関するあらゆる課目について、訓練生の知識力、理解の度合、応用力および記憶の程度を質問や試験によって、正確には撞すべきである。訓練生の素養のは握が不正確であったり、まちがっていたりすると、いかに綿密な教育計画であっても、無価値なものになり実効はあがらない。 教官は訓練生個々の素養に合った適切な教育計画を立てなければならない。

1−2−6 安全性
 航空機を使用する操縦教育では、安全性の確保は絶対条件である。教官と訓練生は協力して、 安全性の確保に努めなければならない。
 教官は安全性の確保について、直接かつ最終的な責任を有するが、訓練生には各人が分担すべき安全確保のための任務について、事前に十分教育して徹底させておくべきである。 操縦教育はその特性上、安全をある程度犠牲にしなければ教育の目標が達成できないという二律背反の側面がある。これは訓練生が将来遭遇するであろう事態に備えた積極的な安全教育であ り、緊急操作等の訓練を制限するものであってはならない。 操縦教育における安全性の確保は、その特性上不可欠であるとともに、訓練生に対する徹底し た安全教育も操縦教育の重要な原則である。したがって、教官は訓練生が計画や判断をするにあ たって、安全性め確保が第一義的に適用すべき原則であることを常時強調しなければならない。訓練生が計画、判断および行動に際して、A,Bいづれにすべきか迷っている場合には、いづれがより「安全」かを選択の基準にするように習慣づけることが大切である。 また、教官の全行動と安全意識は、そのまま訓練生に投影される。訓練生がもし安全を軽視し たときは、教官自身に安全を軽視した言動や態度がなかったかを自己反省すべきである。常々 厳格な安全教育を行っていても、一度でも教官みずからが訓練生の前で、守るべき諸規則、安全の諸基準、運用限界および気象条件等を無視したり、軽視して安全を阻害するようなことがあれば、 それまでの安全教育が無価値なものになることを、教官は特に銘記すべきである。また、教官の行動、態度および意識等は、操縦教育の場に限らず、一般社会生活の場でも模範的でなければならない。このことは訓練生に、更によい影響をおよぼすであろう。もし、教官が訓練生に安全を強調するのみで、自分自身が少しでも安全を軽視するような言動があれば、訓練生は教官の言行不一致に対して、無責任な教官というイメージをもち、その操縦教育は根本から崩壊する。
 例えば、離着陸の風速制限の無視、実行すべきチェック・リストの省略、離着陸重量の超過、VFRで飛行中の雲中飛行等、傾度の多寡や時間の多少のいかんにかかわらず守るべきことは守るように指導しなくてはいけない。安全性確保の問題は、訓練生の健康状態、航空機の性能および運用限界、気象条件、航空情報、航空機の整備状況、搭載物の安全性、航空保安施設、航空交通管制、訓練空域の状態等すべての要素を包含している。だからこそ、教官は常時すべての面で安全性の確保を期して操縦教育にあたり、かつ訓練生の安全意識の高揚を図るべきである。


1−3 教官と訓練生の人間関係

1−3−1 マンツーマン教育の特色
 操縦教育は、一般の学校教育のように数十名の生徒に同時に教育することは不可能である。一人の教官が担当する訓練生の数は、3〜4名が限度である。しかも、操縦訓練をさせるのは同時に1名の訓練生にしかできない。
 すなわち、教官と訓練生はマンツーマンで対応する。さらに、コックビットという狭い密室であるという特徴がある。これらは、他の教育では、ふつう見られないことであり、空中という環 境上の特異性とともに、特筆に値することである。したがって、教官と訓練生のより緊密な人間関係は教育成立の前提条件として必要不可欠のものといえる。操縦教育における教官と訓練生の人間関係の良否は、直接教育効果に影響をおよぼすことを銘記し、教官はよい人間関係をつくることに熱意をもって、取組むことが肝要である。
 マンツーマン方式の教育では、教官の性格、動作、悪度、考え方などすべての教官の特性が訓練生に伝染する。訓練生の操稚や言動を見れば、どんな教官に教育を隻けたか判る程である。訓練生は教官のよいところも悪いところも区別なく真似ようとする。
 また、やや大げさかも知れないが、教官と訓練生は生死を共にする運命共同体でもあるといえる。そこで両者の緊密な人間関係と協調の精神が重視される。
 つまり、よりよい人間関係をつくる責任は教官自身にある。そのことを認識し、教官はあらゆる機会と場所を活用し最大限の努力をしなければならない。よりよい人間関係をつくるためには、教官自身がよい性格でなくてはならない。教官が非常に気短かで、常に訓練生を急がせる傾向があると、訓練生の動作習性はセカセカしたものになる。教官が誠意をもち、訓練生の生活全般にも関心をもって、熱意ある対応をすれば、必らず訓練生の信頼と尊敬を得、良好な人間関係が築かれるはずである。
 まず、第一に教官はよい人間関係をつくるためには、訓練生と共に行動したり、対話したり、接触する機会を多くもつことが大切である。そして、お互いが逐次知り合うことから始めるべきである。そのためには、訓練生の性格や各種能力、趣味および興味をもっているスポーツ等が、凡そ何であるかを知ることから始めるとよい。特に趣味やスポーツを共有することができれば成功疑いない。そのためには、教官は訓練生の性格や能力について分析し、それを教育方法に活用できる能力が要求される。
 第二に教育は教官と訓練生の共同活動であり、教官の有する知識や技能を訓練生に伝達するためには、両者の良好な意志疎通ができる信頼関係や教官に対する尊敬が必要である。
 訓練生は教官が授業で教授する内容以外に、教官からあらゆることを学ぶものである。その意味で、マンツーマン方式は最も理想的な教育形態であるといえる反面、最も危険性を有するともいえる。もし、教官が教育に付する正しい理念をもたず、熱意も愛情もないならば、教育は惨たんたる結果に帰すであろう。しかも訓練生は自分の意志で、自由に教官を選択する余地は皆無である。訓練生を立派なパイロットに育てるか否かは、教官の双肩にかかっているのである。教官は訓練生の教育について、重大な責任を有することを自覚し、不断の自己研鋳に努めることが大切である。教官はマンツーマンによる教育が、訓練生に対していかに大きな感化力を有するかを常に念頭においておかなければならない。愛情と熱意をもった教官は、必然的に訓練生の生活全般に関心をもって彼等を指導できるはずである。

1−3−2 公的交際と私的交際
 教官と訓練生との良好な人間関係を育成するためには、いろいろな形で機会を求めて、接触する必要がある。その接触は、常時教官と訓練生という関係であってはならない。勿論、教官と訓練生という関係を否定しようとしてもできるものではないが、人間としての交際もあろうし、パイロットの先輩後輩といった交際もあるであろう。また時として、教官が訓練生に教えられるという主客転倒した交際もありうる。要は、公的交際と私的交際のケジメを明確につけることが大切である。
 公的交際とは、教官と訓練生がそれぞれの立場を毅然と守って、そこから双方とも一歩も出ることは許されない。換言すれば、教育の場における教官と訓練生の交際をいう。特に空中においては、訓練生がすべての機長業務を学習するが、最終的な責任は教官にある。
 そこで教官の指示や命令は、絶対的でなければならない。教官の指示や命令に訓練生が異論を唱えたり、反論したりする余地はないし、訓練生に不服従の気持ちや態度を植えつけてはならない。これは教官が訓練生をどんなに扱ってもよいという意味ではない。教官の指示や命令は常に真実であり正当なものであるべきことは勿論である。教官の指示や命令に訓練生が疑念をもっても、まず従わせる習慣を身につけさせるよう、教官は毅然たる態度で臨むべきである。
 しかし、いったん航空機を離れ、ブリーフイングをするときは、空中での教官の指示や命令を含み、すべての教官の言動、態度および教育法に対しても自由に発言させ、問題点があれば両者が協力して、早期解決に努めなければならない。教官は訓練生の課目内容についての疑問点を解消する任務を有するのは当然のことであり、教育に村する不満や批判もあまんじて聞き、教育の改善向上に努めるべきである。教育のあり方は、教官が自分勝手に決めるべきではなく、訓練生の教育に村する意見も慎重にとりあつかい、改善の資とすべきである。
 私的交際とは、公的交際以外のすべての教官と訓練生の交際をいう。たとえば、教官と訓練生がスポーツを楽しんだり、芸術を鑑賞したり、趣味を共有したり、教官の自宅で酒を飲んだり、社会問題をとりあげて議論を交わしたりすることは、すべて私的交際である。
 この際必要なことは、お互いが公的立場をとらないことが成功の条件である。公的立場をとり除くことができないと、訓練生は教官の話をきくだけの受動的立場をとり続け、交際というに値しない関係になる。最近の青年の一般的特性の1つとして、主体性が不足している傾向がある。
 ]したがって、教官の適切なアプローチによって、まず彼等の心を開かせ、教官と訓練生が対等の立場で議論をするような機会をできるだけ多くもつようにした方がよい。
 主体性の欠如した訓練生は、常に自己の判断で行動することができず、教官に伺いをたてて行動しようとするし、このようなことは、パイロットとして最も戒めなければならない要素の1つである。操縦教育では、訓練生自身がみずから学びとろうとする姿勢をもつことが大切であり、教官が言うことを理解もせず、ただ盲目的に行なおうとする姿勢は排除しなければならない。近頃一部の訓練生の傾向として、自分で納得してもいないのに、教官が言ったことを単に行なおうとする。こんな訓練生は、自分自身で情報を収集し、自己の行動計画の最良案を判断して行動する思考過程が養成きれず、いつまで経っても単独飛行に出せない。
 主体性や自己主張を養成するには、私的交際の場で、訓練生と教官の立場を入れ替え、テーマを設けて、訓練生に説明させるとか、複数以上の訓練生を担当しているときは、教官役の訓練生が、他の訓練生に村して、自分の勉強したことを披露するとか、いろいろな方法がある。
 操縦教育の場でこの手法をとることも大切であるが、実際問題として、時間的制約がありなかなか困難である。従って、短時間で可能なテーマと内容に限定すべきである。勿論、空中で訓練しているときは、このようなことは不可能であるし、試みるべきでもない。
 このように、訓練生の主体性や自己主張を養成しようとして、教官が最も気を付けることは、立場を明確に区別しなかったために、ケジメがつかなくなることである。教官は訓練生の立場を明確に指示し、公私混同をさせないように指導することが肝要である。一般的に、公的交際の揚で教官が厳しく注意したりすると、訓練生は委縮して教官を避けるようになったり、私的交際で教官と訓練生が対等の立場で話合うと、公的交際でも変に馴れ馴れしくなったりするので、教官はこの点に十分な注意を払う必要がある。

1−3−3 スポーツの意義
 教官は訓練生が良好な精神状態と身体状態で、操縦訓練ができるよう常に配慮して指導しなければならない。操縦は精神活動がその主体であり、精神的疲労が大きい。良好な精神状態を保つには、身体が健康でなければならない。操縦動作は手足を使うことと、視覚と聴覚を使って種々の事象を知覚し、状況を分析検討して行動をすることからなる。手や足を使うことによる肉体的疲労は微小であり、それよりも低圧、低酸素、加速度、荷重、騒音等からくる肉体的疲労が大きい。
 操縦に要する力は、肉体的疲労をきたすほど、大きな力は必要としないし、これの解消のために特別な対策は必要ないであろう。操縦による疲労は、身体の倦怠感と一種の興奮状態である。
 心身の疲労を解消するには、睡眠が最も効果的であるが、興奮からくるイライラのためになかなか眠ることができない。十分な睡眠を促すには、心身がバランスよく疲労することが必要であり、そのためにはスポーツを推奨したい。肉体的疲労が大き過ぎても睡眠を阻害する。
 またスポーツは精神疲労を解消させる効果もあり、適度の運動量の種目がよい。スポーツの種目の選定と実施する時間を適度にしないと、逆効果になるので注意されたい。種目はソフト・ボール、バレー・ポール、テニス、バドミントン、卓球などが適当であり、ラグビー、アメリカン・フットポール、柔道などの種目は避けた方がよい。別の見方をすれば、怪我の多い種目を避けるということである。
 このスポーツは正規の体育教官によって行なわれるのが望ましいが、その不足分は操縦教官が補なう必要がある。教官と訓練生が一緒にスポーツを通じて触れ合うことは、両者の人間関係の育成にも大いに役立つので、教官は積極的に参加すべさである。
 また、スポーツは、運動機能の増進に効果があるとともに、パイロットに必要な先見性や短時間に状況判断をする思考および動作習性が養成できる。パイロットは、自分一人で状況を分析し瞬時に判断して行動しなければならないが、これはスポーツにおけるものと共通性がある。操縦教育で順調な進歩を示す訓練生は、経験のないスポーツでも習熟が早く、概して、一種日に秀でた訓練生よりも、あらゆる種目を適当にこなす訓練生の方が操縦の進度も早いようである。
 教官は操縦教育におけるスポーツの重要性を認識し、スポーツに対する理解をもって積極的に取組んでもらいたい。

1−4 教育の方法
1−4−1教育の過程
 一般的な教育の過程は、1準備、2呈示、3実習と応用、4試験、5評価と検討の5投階に区
分されている。これらは教官が完全に理解し、習得しておくべき教育の基礎的事項である。教育全般の計画や日々の課目の教育においても、この5段階の過程が適用できる。
 操縦教育の過程を、上記に準じて考えると本質的にまったく差異はないが、操縦教育の特性と実態とを考慮すれば、操縦教育の過程は次の6段階に区分できる。
@ 準備(pre−flight Preparation)
A 飛行前のブリーフイング(Pre−flight Briefing)
B 展示と実習(Demonstration and Practice)
C 応用(No Instruction and No Advise)
D 審査と評価(Flight Check)
E 飛行後のブリーフイング(De−Briefing)
 以上についてそれぞれ内容を説明すると次のようになる。
1 準備(pre−flight Preparation)
 効果的な教育のためには、教官は周到な教育の準備が必要である。準備の良否は、教育効果を直接左右する。準備が不完全だと、教育の効果はほとんど期待できない。つまり、教育の方法が適切でなかったり、効果がなかなかあがらない場合は、準備が完全でなかったことに起因するといってもよい。
 教官は準備の投階で、まず訓練生の素養をは握しなければならない。つぎに、課目の内容を十分検討し、どのような方法や順序で教育をすべきか、課目の重点や注意すべきこと、課目の目的と教育の目的との関連、到達目標、配当時間等を決定して、教育計画の作成にとりかかる。同時に教官は課目内容に習熟しておくため自分自身の復習等所要の準備を完壁にすることが大切である。
 教育の準備が、組織的かつ効果的に行なわれるためには、必要な事項、方法および手順等を定型化しておくと便利である。教官はこれらのことを準備したら、最後にレッスン・プランを作成しなければならない。しかし、操縦教育においては、教室での授業のように詳細な口述内容は実際的でない。
 次の諸点については、順序を間違えたり、もれが生じることを防止するために、文書化した方が望ましい。すなわち、課目の目的、課目の実習順序、配当時間、到達目標、課目の要点、空域および目的地、課目実習上の注意事項、必要な教材、携行品、評価および所見、安全対策、訓練生の予習すべき事項、質問事項について、簡潔に記述できる様式を準備すれば、短時間でもれのないレッスン・プランが作成できる。教官はこれらの内容や順序を定めたものを、教育実施に際して自分自身のチェック・リストとして活用するとよい。
 教官は訓練生自身が準備すべき事項についても、十分な時間的余裕をもって課目を明示し、その準備を周到にするように指導すべきである。そうすることによって訓練生自身が、訓練に先立って進んで準備をしたり、彼等が携行すべき飛行用品(プロツター、デパイデー、航法計算盤、NAV−LOG、地図、AIP等)が何であるかを自ら知るようになる。少なくとも、訓練生が準備していなかったことを彼らの責任とすべきでない。教官が事前に指示したり、予習すべき事項を指示するのも、この準備の段階に含まれることがらである。
2 飛行前のブリーフインク(pre−flight Briefing)
 飛行前のブリーフイングに充当できる時間は、30分程度である。教官は飛行訓練の内容等について、簡単かつ明瞭に説明できるように、準備を完璧に行なう必要がある。飛行前ブリーフイングの段階には、訓練生が行なう気象情報および航空情報等の収集活動開始から飛行前点検終了までが含まれる。
 まず、教官は訓練生が航空法第67条に定められている当該飛行に必要な操縦練習許可書または、航空従事者技能証明書および有効な航空身体検査証明書を携行していることを確認しなければならない。つぎに、同法第73条の2の定めによる当該航空機および装備すべきものの整備状況、離陸重量、着陸重量、重心位置、重量分布、航空情報、当該飛行に必要な航空気象情報、燃料および滑油の搭載量およびその品質、積載物の安全性を確認する。
 これらの確認すべき項目は、その日の状況によって確認の順序が異なることがあるので、それぞれの状況に適合したチェック・リストに従うのが望ましい。最後に、空域の調整をし他機の状況もは握して、自分の行動の基礎となる飛行計画を作成させ、飛行計画書の記入提出で地上での準備のほとんどが終結する。これらのことは、訓練生自身に日常的に行なわせ、教官はそれを指導監督する方式がよい。
 効果的教育のためには、教官は綿密な教育計画にもとづき、課目の目的、主演練項目、要点、順序、到達目標、注意事項、安全管理事項等を十分説明し、訓練生に理解させなければならない。
併せて時間配分や空域その他訓練管理上の諸点についても、教官の計画を訓練生に説明する必要がある。このようなブリーフイングをする際に、教官自身が気をつけなければならないことは、航空専門用語の使用についてである。
 航空専門用語は、ある程度の英語能力で理解できるものもたくさんあるが、正確に理解させるためには、定義をきちんと説明することが大切である。教官は日常的に専門用語を多く使っているので、知らず知らずのうちに専門用語を使ってしまうケースがある。教官がこのように不用意に何の説明もなく専門用語を多用すれば、訓練生は教官のブリ−フイングの内容がまったく理解し難いものとなるし、時として訓練生自身の既成槻念と経験にもとづいて独断的解釈をする恐れがあるので注意しなければならない。
 訓練生は専門用語に対しては、特別な熱意と興味をもって吸収しようとする意欲がある。だから教官は最初に正しい専門用語の定義を理解させるように説明するのが効果的である。訓練生が正しい概念として専門用語を習得していると、教官との意志疎通や状況説明を簡潔に表現できる利点があるので、課目進度に応じて必要な専門用語は積極的に教育すべきである。 教官がブリーフイングするに際しては、単に口頭で説明するだけではなく、黒板、模型、図表、数表、チャートおよび各種視聴覚教材等の教具や教材を適切に活用しなければならない。例えば、比較的姿勢変化の大きな課目(シャンデルやレイジー・エイト)をいくら口頭で説明したり、実際に教官が展示しても、訓練生はその形や飛行機の姿勢変化を正確に理解することが困難である。しかし、全体の形を図示し、模型飛行機を使って手順や操作要領および姿勢変化を説明すれば、訓練生は視覚によるイメージとして容易に理解し、記憶するはずである。
 教官は以上の事項について、ブリーフイングが完了したら、飛行の可否を決定し、飛行計画書を訓練生に記入させ、教官は間違いがないかを確認したのち署名し、提出しなければならない。 飛行の可否の決定にあたっては、正確な天気図の解析と最新の気象実況を入手する必要がある。訓練生は天気図や気象情報の現況のみで判断しようとする傾向があるので、現在までの天気変化傾向と今後の予測を基碇に訓練効果が期待できることを主眼として気象判断をするように強調すべきである。また、地上天気図だけでなく、高層天気図のうち当日の飛行に関係する天気図について、詳細な解析が必要であることを強調しなければならない。
 飛行の可否の判断は訓練生自身に行なわせるべさだが、訓練生は往々にして、飛行規程や運航規程およびその他の諸基準に定められた運用限界や制限事項を判断の基準として考える傾向があるので、教官は注意を要する。飛行の可否の最終決定は教官自身が行なうべきであり、訓練生の結論と違った場合は、その理由を懇切に説明し、訓練生に理解させることが重要である。
 飛行の可否決定に際して最も重要なことは、訓練効果が期待できるか否かである。運用限界や諸基準には合致した気象条件であっても、訓練効果が十分期待できない恐れのあるときは、その訓練は中止すべきである。大切なことは、課目の進度状況を十分考慮して、訓練効果が期待できる条件を見極めて飛行の可否を決定しなければならない。この際、訓練生の進度状況に応じて、段階的に逐次気象克服能力の教育をすることを忘れてはならない。
 例えば、離着陸の横風制限が15ノットと規定されている航空機で、訓練生の技量がまだそこまでいっていないのに、単に現在の風速が14ノットの横風だからという理由で、飛行可能という判断をするのは誤りである。勿論最終的には、15ノットの横風でも離着陸ができる技量を付与するのは当然である。課目進度と気象条件との関係が適合しないと、初期の訓練生に難しい課目を課するのと同様、効果が期待できない。そればかりか逆に教育を阻害する要因として作用するので、教官は課目進度に応じた気象条件を腹案としてもっていなければならない。
 教官はブリーフイングの間に訓練生の健康状態にも関心をもって、覿察しなければならない。訓練生は飛行に村する熱意や進度の遅れを心配して、自分の病気や睡眠不足、精神的不安など心身の状皆について、自己管理能力が乏しく、過少評価する傾向がある。従って、教官は訓練生の心身の状態を彼等の言動や額色、あるいは直接質問することによって知るよう努める必要がある。また、訓練生が単にこれ位の病気は関係ないと考えるようなことが、飛行することによってどのような障害をひき起こすかを十分認識させ、自発的に教官に報告するよう指導することが大切である。経験的にいえることは、軽度の風邪を無視して飛行したために、航空性中耳炎になった例が一番多い。
 最後に教官は課目の内容、実施順序、手順、要点、到達目標等について、訓練生が疑問点や不安要素がないかを再確認すべきである。訓練生に課目の要点や考慮すべき事項等を呈示するときは、同時に数多くのことを説明しても実効はあがらない。教官は逐次段階的に課目を組み立て、日々の要点や着意事項を準備し、シラパスの規定時間内で、到達目標に達するように計画すべきである。特に初期段階の訓練生には、入念に判り易く話すよう心掛けることが大切である。
3 展示と実習(Demonstration and Practice)
 教官は飛行中訓練生に村して、課目の模範を展示し、完全に課目内容を理解させるとともに、ブリーフイングの段階で説明した課目の要点、飛行機の特性、手順、操作要領および注意すべき点等を実際に説明する。その際、訓練生は騒音や緊張のため、なかなか聞きとれないことがあるので、肉声で説明する場合は、訓練生に十分きこえる声で説明すべきである。インター・ホーンが装備されているときは、インター・ホーンを使うほうが望ましい。
 訓練生はブリーフイングの段階で課目の内容その他について、完全に理解し記憶していても、空中では低酸素、低圧、速度、加速度、重力および騒音等の特殊な環境条件や過度の緊張のため、すべてを行動に発揮することは不可能である。教官は過度の要求にならないよう注意すべきである。
 展示は教官のもっている知識と技量を訓練生に披露することであり、訓練生の知識や経験を基礎として、簡単明瞭に要領よく、適切な用語で判り易く説明することである。ブリーフイングの段階で説明したとおりの展示が望ましいが、空中では雲の状態や気流あるいは視程等の関係で予定通りの展示がでさない場合がある。また展示が失敗したとさは、弁解やごまかすことなく、素直に認め、失敗した理由を説明する方がよい。
 展示の後、訓練生が実際に実習する機会が与えられる。訓練生はみずから操縦してみて、最もその効果が発揮されるものである。操縦教育の主たる部分は、この訓練生の実習である。展示の段階で、教官が訓練生の理解不足を認めた場合は、実習の効果が少ないと考えられるから、実習に移行すべきではない。
 また、実習の段階で、訓練生の理解不足に起因する失敗が認められたり、同じような失敗や誤りを繰返すときは、これを叱責することなく、教官は適時に展示を挿入すべきである。この展示では、何故うまくやれないか、誤った箇所はどこか、その原因と村策の要点を明確に説明する。 訓練生が実習している間は、教官は口を出したり手足を出したりしてはいけない。教官は訓練生の実習を観察し、失敗の原因について考察し、適切な説明や指示ができるように準備する。教官が訓練生の操作にいちいち口を出すと、訓練生の思考活動(Head Work)は完全に停止し、単に教官の手足の代用に過ぎない存在になる。
 操縦は訓練生自身が、状況を知覚し、判断して計画を立てて操作することであり、その大部分を教官が行なってしまっては、その実習はもはや実習とはいえない。教官が手や足を添える場合は、その旨を訓練生に知らせてから行動すること。そうしないと訓練生は、正しい操舵感覚を習得することが難しくなる。訓練生の思考活動が、地上と同じように冷静に行なえるように、教官は援助する立場であることを忘れてはならない。
 人間は二つ以上のことを同時に正しく行うことは、なかなか困難であるので、教官は高度、速堰、方向等修正すべきことを矢継ぎ早に指摘してはならない。そういうことをすると訓練生は戸惑うばかりで、ますます混乱する。教官は修正する順序と要領を正しく説明することが肝要である。教官は訓練生の失敗について、その事象だけを指摘するのは、愚かなことである。訓練生は自己の失敗については、ある程度認識しているのが普通である。
 ただし、逆に緊張傾向の強い訓練生は、自己の失敗すら気がついていない場合もある。こんなときは、訓練生の緊張をやわらげ、平常心に戻すことが先決である。一般的に失敗したことについて訓練生は認識しているが、何故失敗したのかその原因が判らないのがほとんどである。したがって、教官の仕事は、その失敗の原因を分析究明し、適切な対策を考えることが大切である。
 教官の指摘通りに操作して成功すれば、訓練生は教官に付して絶大な信頼をもち、よりよい人間関係をつくり、更に大きな効果が期待できよう。教官が訓練生の失敗の真の原因を見出しえず、その事象ばかりを指摘し続けると、訓練生は教官の指摘の都度、自分なりの対応をいろいろ試み、たまたまうまくいったとき、それがあたかも原因であるような理解をしてしまう危険がある。ちなみに訓練生が、高度計を狂わせたとき、そのことを指摘してみるとよい。訓練生は教官の指摘と同時に速度計の点検や出力の調整を行うことなく、機械的に昇降舵を使うであろう。
 このように、失敗の事象のみを指摘し続けると、訓練生自身で失敗の原因を考える能力を養成することができず、パイロットに最も必要とされる計画力、判断力を習得できない結果になろう。 以上のような訓練を続けると、訓練生の進歩はみられず、当該課目をかりに習得したとしても、他の課目に移行してその成果をまったく応用できないので、教官はこの点に十分留意する必要がある。
 また、飛行訓練は訓練生にとって、快適なものでなくてはならない。そのためには教官は、訓練生の緊張をほぐし、リラックスさせる配慮が必要である。リラックスとは緊張のほぐれた状態のことであり、身体の力が抜け、心が弛緩してダラリとした状態とは違う。特に操舵感覚を感得するためには、リラックスした状態でなければ感得できない。
 例えば教官が誤った概念を基礎にして訓練生に罰を与えたり、暴力を振ったりすることは、厳に慎む必要がある。確かに操縦は、身体で覚える部分があるが、それは訓練生を罰したり、「愛の鞭」と杯して暴力を加えることで、訓練生にたたき込むべきものではない。一番大切なことは訓練生に正しく経験させることで技量を身につけさせることである。
 暴力や罰を与えることは、教官が自己の教育能力のないことを証明するようなものであることを銘記すべきである。訓練生の側からみれば、暴力を振るわれリラックスしろとは実に矛盾したことをいう教官と写るであろう。特に教育初期にこの種の教育の方法を用いると、訓練生はこれを操縦教育の特殊性として受け入れる傾向がある。しかし、これらは本質的に最も避けなければならないことである。このような教育を受けてきた訓練生は、自発的思考活動ができず、常に教官の顔色をうかがい、教官に迎合する姿勢がみられるようになる。
 加えて、その苦痛や恐怖から逃避することにのみ終始しようとし、いかにすれば教官に叱責されないかだけを考え、理由もなく反射的行動をとるようになる。そのようなことが常態として長く続くと、訓練生は単独飛行のようなときに解放感に浸り、間違いを犯すことにもなる。
 操縦教育の特性上、恐怖と苦痛は、教官が最も配慮して排除してやることこそ大切である。とかく「操縦は身体で覚えろ」とか「愛の鞭」とか「危険操作を二度とさせぬためには、体罰が効果的」とかいう概念は、すべて間違いである。これらのことは無能な教官が自己の行動を正当化するための詭弁である。ちなみに、全くこの種の教え方を受けないで育った訓練生と比較してみるとよい。かりに、両者の間に差異がないとすれば、苦痛を味わっただけ、その訓練生は損をした訳である。このような方法では、教官と訓練生のよりよい人間関係など望むべくもない。
 つぎに、教官は訓練生の実習に配当する時間について、訓練生の能力や進度に応じた細部計画をもつべきである。訓練生にとって、経験することがいかに重要であるといっても、必ずしも長時間の実習でよい成果がえられるとは限らない。また、あまり短かすぎても、効果はあがらない。訓練生の実習時間の長短と効果は、直接的な比例関係にない。
 従って、教官は進度に応じた各課日の実習時間を訓練生個々に準備する必要がある。初期の段階の訓練生には、ICAO、Training Manualにも述べられているし、また経験的にいえることでもあるが、連続1時間の実習時間が最大である。もし、これ以上の実習をさせようとする時は、間に休憩をはさまなければならない。
 実習が連続して長すぎると、訓練生は疲れて集中力を欠き、教育の効果はあがらない。しかし、逐次進便が進み、訓練生が空中にもなれてきて頻繁な姿勢変化のある課目以外の航法の課目などでは段階的に時間を延長することは、差し支えない。連続離着陸のように、限定された時間内に数多くの計画判断をして操作をしなければならない課目では、単に画数を重ねても訓練効果が上がるというものではない。連続離着陸は1人5回位が適当である。経験的にいえることであるが、離着陸の回数は訓練生の進度や飛行時間に拘らず、訓練実施基準等で制限回数を明記しておいてもよい。このように、教官は訓練生の進度、課目の難易度等を考慮して適切な実習時間とその山容を配当するようにする。
4 応用
応用の段階は、訓練生がすでに習得した課目に関する知識や技能を基礎として、訓練生みずからの計画と判断に基づいて、新たな課目に既得の能力を発揮させるための教育である。これまでに述べたように、各課日の目的や内容を理解して習得されていれば、訓練生はごく自然に応用できるものである。
 これと反対に、訓練生が目的を理解していなかったり、中途半端な理解しかしていないと、新しい課目に既得の能力はまったく発揮されない結果となる。
 操縦教育における応用は、訓練生のPilot in command trainingとして行なう方法がある。すなわち訓練生が、自主的に計画し、それに基づいて彼等自身の判断と操縦によって、航空機を運航させる教育の形態である。いいかえれば、計画準備から飛行終了までを、教官がブリーフイングで注意をすることなく、訓練生に一人のパイロット(機長)として行動させることである。しかし、あくまでも教育の方法の一つであるので、教官は同乗して安全確保に努めなければならない。これを、一般的にNo Instruction and No Adviseの飛行とよんでいる。
 教官は訓練生の自発的行動を助長しつつも、大きな失敗をきせないように配慮しなければならない。特に初期の段階の訓練生に課目を勝手にやらせておき、異常姿勢になったり、危険な状態に陥ったりするまで放置しておくと、訓練生は恐怖心や不安感をもち、自信をそう失したり劣等感をもって、動機づけを大きく阻害するので注鳶しなければならない。
 しかし、訓練生の能力によって回復可能な、かつ危険性のない小さな失敗は、適時適切なアドバイスを与えることにより、彼等の自主的解決をまつべきである。そのことによって、訓練生はみずから解決法を見い出すであろうし、解決しえたときは、大きな自信となりよい動機づけとして作用し、その後の自主的学習を促進する。したがって、この段階での教官の役目は、常に訓練生の能力をは握し、彼等の能力で解決しうるものか否かを判断することにある。
 教官は訓練生に自信をもたせるようにするためには、ミスを犯す前に適切なアドバイスをすることが大切である。
5 審査および評価
 この投階では、訓練生が課日についてどれだけのことを習得したか、また習得した課目がどれだけ理解され記憶されて身についているか、その応用力はどうかについて評価するために審査する。
 評価とは、教育効果や進歩の度合(進度)を確かめるためのものである。このことは、教官みずからの教育の反省の資となり、その後の教育計画作成や指導方法改善の重要な手掛りとなる。 審査とは、知識や技能を数値的に表示して、知識や技能の程度を判定しようとするものである。評価は審査結果を基礎として、更に加えて広く訓練生の態度、興味、行動、適応性、計画力、判断力、安全意識および操舵感覚等全人格(パーソナリティー)すなわちパイロットの総合的理想像を背景とした、一定の理念や価値感を基準として、判定しようとするものである。
 審査には、各課日の進度をは握するための課目進度審査、一定の時期を定めて行う初度技能審査、中間技能審査、最終技能審査、その他必要の都度行われる特別審査がある。
これに対して評価は、その趣旨から日常的に継続して行なわれるべきものである。評価は、累加的に記録すべきものであり、その結果は、訓練生に要約して説明しなければならない。当然、日々の教官の評価がブリーフイングのときに訓練生に説明される必要がある。また、審査や評価の基準や観点は、教官相互によく検討したうえで、所定の様式を定めて統一的に一定の基準や理念のもとに行なうべきである。
 このような審査や評価は、訓練生相互間に優劣や序列をつけるためのものではなく、あくまでも教育した課目について、計画通りの目標が達せられたか否か、達せられていない点は何か、その原因は何かなどを判定確認することがその主たる目的である。すなわち、教育の方法の一つの手段である。
試験にも上記のような側面がある。試験の場合は合否の判定や得点の多少が問題になるが審査はこれと趣を異にする。従って、審査にあたっては技能の良否に偏重することなく、航空専門知識の習得状況も勘案できるように、審査表を作成すべきである。
 そして、評価に関しては教官は日々訓練生を観察し、ブリーフイングで十分説明し、訓練生にその結果を認識させる必要がある。訓練生は自己の進度状況や教官が自分をいかに評価しているかを知りたがっている。
 また教官は訓練生に適確にこれらのことを認識させないで教育を継続すると、教官と訓練生の間の意志疎通を欠き、その後の指導に重大な障害となるので注意が肝要である。
6 飛行後のブリーフインク(De−Briefing) 教官の評価を訓練生に説明し、理解させ、復習すべき点やよかった点、今後の理解すべき事項
または不満足な点を認識させ、これらの対策について話合うのがこの段階の目的である。
 この飛行後のブリーフイングで、教官が一方的に説明することに終始すると、訓練生の理解を誤らせる結果になることがあるので、特に注意しなければならない。教官が認知しうるのは、あくまでも現象であり、訓練生がいかに状況を認識し、分析し、判断して操作したかは、正確に知ることが難しく准測しかできない。この教官の堆測をもとに原因を究明して、決めつけることは危険である。従って、必然的に教官が真の原因を究明しようとすれば、教官と訓練生との討論の場になるはずである。
 飛行後のブリーフイングは、教育過程の最終段階であり、次の教育の準備に連動しなければならない。また、飛行後のブリーフイングは次のような目的のために有用である。
 @ 訓練中に行なわれたことを、まとめてはっさり示し、正しい方法手順等を説明するととも  に、誤った事項を説明指摘する。
 A 教官は全般的な観察の結果を評価して訓練生に示す。
 B 訓練成果の長所と短所を示し、誤った事項や不満足な点を改める方法、考え方、手順等を  明示する。
 C 基本的事項は習性化するまで、指導を縦続する。
 教官のブリーフイングの巧拙は、教官と訓練生の人間関係をよりよくもするし、悪くすること
もあるので、教官は話し方や態度には細心の注意が必要である。
 訓練生に村して、不用意に皮肉を言ったり、悪いところばかりを他人の前で強調するようなことは、厳に慎まなければならない。特に訓練生の性格や身体的欠陥を矯正しようとするときは、相互の人間関係が確立された条件下で、かつ人前では指摘せず、極力訓練生を傷つけないための配慮が大切である。これと反対に訓練生に対する賞賛は、他人の前で行なうのがよい。
 また、操作手順の誤りや、諸元の保持不良等を指摘するだけでなく、そのことが課目の目的や教育目標とどのような関連性を有する間遠であるかを強調しなければならない。単に現象だけを指摘するだけでは、何の改善向上にもつながらない。
 教官は諸操作要領や手順、守るべき諸元等が何故守れなかったのか、その真の原因を究明し、そのことについて説明し、訓練生自身の認識と照合しなければならない。そのためには、教官は訓練中の訓練生の手足の動きや、姿勢、視線等の動向等行動全般に関心をもって観察すべきである。
 教官の説明する内容が、訓練生の認識や理解とずれている場合は、その説明は訓練生を誤解させる危険性がある。訓練生自身が積極的にブリーフイングに参加し、教官と自由に討論できるような環境づくりが必要である。教官の説明に際しては、実物や模型、図表等の各種教具教材を有効に利用する重要性は、飛行前ブリーフイングと同様である。
 最後に教官は、全般的なマトメを行ない、重点を強調して不十分な点を改めるための練習や研究の方法を述べるとともに、次の訓練の準備についても簡単に要点を述べる。
 ブリーフイングは、時間が長いが故に価値があるものではない。常に訓練生の反応を覿察し心理状驚を洞察して、教育計画で配当されたブリーフイングのための時間は、これを厳に守ることも教官の重要な役目である。教官はブリーフイングを終るにあたって、これまで述べたことを要約し、要点を強調するとともに、結論と翌日の予習事項、訓練予定を簡潔に述べ、長談義にならないよう注意する。

1−4−2 教育計画
 すべての教育活動が効果的であるためには、綿密かつ周到に準備された教育計画が必要である。教育計画は、教育目的を達成するため教育課程の終始を通じて、教官をはじめ、訓練生および教育支援業務に従事するすべての人々の行動の準拠となる必要なことを定めたものである。しかし、あくまでも計画である以上、作成の時点ですべて必要なことが、明確になっているわけではない。訓練生の経歴および素養、航空機の稼働状況、気象条件等々不確定要素が多いので、計画作成にあたっては、確定できるものを基礎として、その大綱を定め、状況の変化や推移にともない、逐次修正して実施に移行すべきである。
 教育の実施に際しては、教育計画に固執することなく、各種状況の変化に即応して計画を補備修正して実施する。これは、教官の重要な任務の一つである。したがって、教育計画は段階的に目的達成ができるよう組立てられ、かつ状況の変化に即応でさる融通性を保持することが重要である。
 教育計画には広範なものが含まれるが、操縦教育に係わるものについて以下述べる。
 つまり、教育計画には、操縦教育を効率的に達成するために、各課日の目的と目標を明確に定め、それぞれを有機的に組み立てておくことが大切である。このため教育計画は、融通性と一貫性を備えていなくてはならない。教官が直接準拠して行動するためには、教育目標の設定、学習プログラム、シラパス、教授計画等が必要である。
1 教育目標の設定
 操縦教育の目的については、すでに述ベたところであるが、教育計画ではこの目的を達成しうるような目標の設定こそ重要である。操縦教育における目的を達成する第一段階の目標は、航空従事者技能証明と無線従事者免許証の取得であり、そのための最低基準は、規則により定められている。
 操縦教育の当面の目標は、特定の航空機の運用について、必要な知識、技能を習得させ、訓練生を有能かつ能率的で安全なパイロットとして資格づけることにある。すなわち、訓練生が必要な学科試験と実地試験に合格し、技能証明を取得することが、初期の目標である。しかし、教官が最も注意しなければならないことは、上記の各試験に合格させることのみに専念し、教育の目的である理想的パイロットになるための基礎を付与することを失念することである。
 教官はこのことを忘れてテクニック教育に備重したりしないで、常にバランスのとれた資質あるパイロットを目指して、教育すべきである。教官は操縦教育の目的達成のための基礎を教授する立場から、訓練生に村して各航空横の種類に係わる知識や技能に限定して教育してはならない。将来訓練生が他の異なる横種に移行しても、習得したことがらが十分発揮され、応用できるものでなくてはならない。
 例えば、操縦に対する考え方、緊急事態に対処するための心構えや能力、安全意識などは、航空機の種類や等級に関係なく共通であるはずだからである。
 教育目標の設定は、課程全般の目標と各課目の目標達成のための目標とある。これらはそれぞれ、教育課程の到達目標、各課目の到達目標として、カリキュラムのなかに、具体的に設定すべきである。
2 学習ブロックの確立
 教育目標を達成するために、全課程を適切なブロックに区分し、各課目を段階的に組み立てる必要がある。操縦の習得は、一歩一歩段階的に目標に接近すべきである。そのためには課目の順序、配当時間等について、まず学習ブロックごとの大綱を定めておかなければならない。
 例えば、教育初期段階の訓練生に、いきなり航法という課目を教育しても、それは単なる遊覧飛行に終るであろう。また空中操作を全く実施せず、旋回や上昇降下飛行ができない訓練生に離着陸訓練を行なわせても、有効な成果は期待できない。同じように、基本計器飛行を習得していないのに、応用計器飛行に移行するのは不可能である。
 さらに、空中操作と離着陸の関係のように、完全に空中操作を習得してから離着陸に移行するよりも、むしろ空中操作の訓練をある程度先行させつつ、途中の適当な時期から、離着陸と同時並行的に訓練をさせた方が効果的な場合がある。
 従来の学習ブロックは、空中操作の訓練を終了してから、離着陸訓練に移行する方式が一般的であったが、近年、機材数、空域の状況、訓練生の数等の関係もあり、慣熟のための空中操作後、離着陸と空中操作を半々に訓練させる方式が一般的であり、従来の方式に比較して効果的であることも認められている。
 このように学習のブロックは、課目を完全に独立して行なうべきものと、並行的に行なう方が望ましい場合もある。学習のブロック化にあたっては、訓練環境によって差異があるので、環境に一番マッチした学習のブロックを確立すべきである。操縦教育では、空中操作にはじまり、航法や夜間飛行に至る必然的ブロックがあるのも事実である。
 このように課目相互の関係を効果的に構成するための手段が、学習のブロック化であるといってよい。自家用操縦士技能証明取得を教育目標としている場合を例にとると、単独飛行による離着陸、単独飛行による空中操作、単独飛行による野外飛行および技能証明取得に必要な技能ごとにブロック化することが肝要である。
 課目の教授計画にあたっては、教官はこれらのブロックを細分化し、常に教育目標に努力が指向されるように、訓練生を指導しなければならない。ブロックは測定したり評価したりすることが可能な学習の単位であるべきだが、単に教育時限の順序であってはならない。このブロックは細分化し分類すれば、その可能性は無数にあるといえる。当然一つの課目も無数のブロックに細分化できる。
 例えば、離着陸のような場合、地上滑走、試運転にはじまり、離陸のためのパワー操作、滑走路中心線へのアライン、難陸時の直進、風に村する修正、機首上げ操作要領等、最終的には緊急状態下での着陸要領に至るまで、そのブロックは訓練時期との組合せによって無数になる。このような組合せの中から適切なものを教官は訓練生に示すならば、過大過小の要求にならず、同時に訓練生の学習意欲を維持助長する適切な要求となるであろう。
 教官は日々の教授にあたっては、自分なりの最小ブロックを確立して、訓練生の学習を援助指
導することが大切である。これら最小ブロックの適否は、次の3点を備えているか否かによって、大きく左右される。
(1)訓練生が自己の知識や技能をもとに、学習に挑戦でき、それが達成可能かどうか。
(2)訓練生の努力によって学習が達成された場合、妥当な報酬が期待できるか。
(3)教官は訓練生に学習の目標を明確に示しているか。
 訓練生の進度に伴ない、各最小ブロックが完成し、教育成果が合格基準以上に到達するにしたがって、関連の諸ブロックはより大きなブロックに発展し、終極的に教育目標達成に至らなければならない。このような学習のブロックを確立する基磋になるものは、適切に計画準備されたシラパスである。
3 シラパス(教育要目)
 操縦教育のシラパスは、カリキュラム(教育課程)を基礎として作成されるものである。すなわち、シラパスは操縦教育課程の骨格となるものであり、操縦教育が最も効率的に行われるように順序に従って諸ブロックから構成きれている。操縦教育シラパスは学科シラパスと飛行訓練シラパスからなる。学科シラパスは課目名、教育時間および到達目標が含まれ、飛行訓練シラパスはこれに加えて、教育形態すなわち同乗教育や単殊飛行及びP.T.C(Pilot in command)の別および審査の時間と時期が含まれ、それぞれ教育の順を追って示される。シラパスには、操作要領、手順および飛行諸元等は含まれていない。またシラパスは教授計画(レッスン・プラン)作成の基礎ともなる重要なものである。
 教官は教育の目標を設定し、各課日の配分や配当時間を細分化しブロック化する必要があるが、シラパスに定められた課目や教育時間は、あくまでも一般的標準であることを忘れてはならない。シラバスは教官の教育活動の基礎となるものであり、決して教育活動を拘束するものではない。したがって教官は教育環境や訓練生の進度状況に応じて、適宜効果的に修正する責任がある。その意味でシラパスは、各訓練生に最も適合するように、補備修正できるだけの融通性と余裕があることが望ましい。しかしシラパスに定められている課目の順序や時間配分等を変更する場合は、必要最小限に止めるべきであり、もし変更したときは、他の課目やブロックにおよほす影響を考慮して、ブロックの再構築をすべきである。
 シラパス作成にあたっては、航空局が発行している自家用操縦士用のシラパスを参照し、その課程に適合したものを作るとよい。
 4 教授計画(レッスン・プラン)
 教官はシラパスを細分化して各教育時限ごとに、教授計画を作成することによって、効果的教育が達成できるものである。
 教授計画の良否は、教育の効果に直接影響をおよほす。例えば、長い経験のある教官は、時限毎に教授計画を文書化して作成しなくても、過去の経験によって、定型化された教授計画は頭に入っているものである。しかし、経験をつむことだけではこのようにはならず、教授計画を反復繰り返して作成した結果、自然に頭に入るものである。
 従って、新人の教官や経験豊かな教官であっても、教育効果の向上のため、自己の教育法の見直しをしようとするときは、定型化された教授計画を実際に作成し、それによって教授してみることが必要である。教育の全課程を一人の専任教官が担当する場合は、特に定型化することは必要ない。自分が使い易いようにまとめたメモで差し支えない。
 しかし、組織的に多数の教官が多数の訓練生を教育するような場合は、定型化してその記述の仕方や内容について、全教官がいつでも使用できるように、十分検討されたものであることが望ましい。
 教授計画には、次のようなことを含ませるとよい。
 ・課目の目的
 ・到達目標
 ・主演練項目
 ・配当時間
 ・教具教材
 ・予習課題
 ・評 価
 以下、これらの内容について説明する。
(1)課目の目的
訓練生に課目を教授することによって、何を学ばせるかを明確に述べなければならない。航空機運航の中での課目の位置づけ、課目を習得することによって生ずる効用、課目の意義、教育課程のなかでの当該課目の位置づけ、技能証明や次の課目との関連性を強調し、訓練生の動機づけを促す。
(2)到達目標
 シラパスの各ブロックごとに到達目標があるが、ここでは細分化したホップごとの定められた到達目標を訓練生に明示する。このとき教官が気をつけるべきことは、定められた到達目標を機構的に呈示したり、一挙に高度な到達目標を示したり、数多くの到達目標を一度に呈示することである。教官は課目の到達目標を細分化し、レンガ積み方式で投階的に到達するように構成すべきである。したがって、画一的になることを極力排し、訓練生の能力や進度に適合させるよう心掛ける。
(3)主演練項目
 主演練項目とは課目の重点であり、教育時限のなかで、どんなことを主として演練するのか、その順序はどんな順序で行なった方が効果的かを十分検討したうえで決定すべきである。しかし、空域の状況や気象の関係で変更する場合もしばしばあるので、教官はそんなときに対応できるように、予備の計画と主演練項目の変更についても腹案をもつべきである。
 この主演練項目には、既習の課目のなかで、復習すべき主要な課目等を含ませるとよい。
(4)配当時間
 シラパスに定められた各時限毎の配当時間を基準として、教育の過程にそって、時間配分してゆく。また、各主演練項目や実習の回数等の概略の時間配分をするが、これは実際の教授の際に拘来されるものではない。訓練生の実習の習得状況や空域、気象の状態によって、配当時間は自由に変更できるように、予備の計画を準備すべきである。
 時間配分を計画する場合は、細かく計算し空域への飛行や訓練生の交代等、損失時間があることを考慮し、余裕のある時間配分をすべきである。
(5)教具、教材
 教具とは、学習を効果的に行なうために使用する道具であり、チャート、標本、視聴覚教具などがある。
 教材とは、「教授および学習の材料。教師および児童、生徒の間を媒介して教育活動を成立させるもの(広辞苑による)」と定義される。
 操縦教育は数多くの教具や教材を有効に活用することによって、教育に活力をもたせることができ、かつ訓練生の興味を倍加きせる効用がある。
 教官は教育準備のなかで、課目に必要な教具や教材を準備しなければならない。そのなかでも、教材は教育に不可欠のものであり、通常は準備されているものである。従って教官は、教材の数や状態を確認し、主として、教具の準備に専念するとよい。教具と教材は、実際には余り明確な区分がされていない。教具は教育活動の成否に係わるものではなく、その教具を使用することによって、より効果的な教育を行なうための道具である。一方、教材はそのものがなければ教育そのものが成立しないようなものである。一般的にいうと、教具は教官のアイデア等で自作または特注する場合が多い。
 教具には航空機模型やチャートなどが含まれ、教材には教科書やコンピューターなどがある。教材は教官自身が準備すべきものと訓練生が準備するものがあるので、事前に区分をはっきりさせておくことが大切である。操縦教育では、いったん空中にあがれば必要な教材を忘れても、とりに帰ることはできないので、飛行前に最終的な確認をした方がよい。
 教官は数多くの教具を上手に使用して、教育効果をあげる必要があるが、そのためには効果的な使用法に精通することが大切である。同時に教授計画のなかには、訓練生自身が携行すべき教材も列挙して、彼等に事前に明示しなければならない。
(6)予習課題
 訓練生が、課目を行なうのに必要な知識を整理し、訓練生に十分な時間的余裕をもって、復習や予習ができるように明示する。そのためには、教官は訓練課目に最低限必要な要点を整理しておくべきである。教官が予習課目を訓練生に指示する際、参考とすべき刊行物や図書についても紹介しでおく方がよい。訓練に必要な知識や操作手順などが不十分な状態で、訓練生に飛行訓練を行なわせても、誤解を植えつけたり、中途半端な習得しかできず、その訓練の効果は半減する。従って、教官は予習課目を事前に与え、それが完全に準備されていることを確認したうえで、飛行訓練を行なうべきである。
(7)評価
 訓練生の訓練の結果、習得状況を評価し、その後の教育計画の修正や改善の資とするためと、教官自身教育方法の反省をするために評価を行なう。評価の基準は、到達目標を日々の訓練課目に適合するように細分化して定めるべきである。評価は飛行後のブリーフイングの資料にもなるので、教官は訓練生を評価するために指摘しなければならない事項を記録しておくことが大切である。この日常の評価は、訓練生の平常点(訓練生の最終評価に際して加味されるべき日常の平均的な点数等)の資料となる。
 このために、教官は課目開始ののちに、計画外の課目を入れたり手順をみだりに変更してはならない。これらを変更する場合は、訓練生の習得状況が予測とかけ離れていたり、訓練生の知識の程度や訓練の実態を分析したうえで、計画が明らかに過重なものであったり、容易すぎたり、要するに計画が訓練生に適合していないことが判明したときである。このようなことを無視して、自分の計画に固執して強行するようなことがあれば、その教育は失敗するであろう。
 そこで大切なものが教授計画の作成である。評価は、教授計画の結論といってもよい。教官がいかに多忙であっても、文書化するしないにかかわらず、必らず教授計画を作成しなければならない。教授計画は周到な準備の結果、精選された教育資料の集大成であり、作成した教官自身が使用するのみならず、他の教官が使用するためにも必要である。
教授計画の定型化は必要であるが、特に走ったものはない。その一例は下表のとおりである。
 
教 授 計 画 年 月 日
課   目 通常離着陸 HOP.No TL−2(2日目)
目   的 1.正村凰における離陸、着陸の技能を付与する。
2.離着陸の際の地上目標を理解させる
主 演 練
項   目
1.地上滑走および試運転
2.離陸時のパワー操作
3.離陸の直進
4.場周経路および諸元の理解
到   達
目   標 
1.点検、始動、試運転および地上滑走の概成
2. 離陸操作を体験させる。
時   間
配   分
1.飛行前ブリーフイング………30分
2.教官による展示………‥…‥10分
3.訓練生の実習‥‥……‥‥‥30分
4.飛行後ブリーフイング‥……・…30分
教   具
教   材
1.FA−200模型
2.ホワイト・ボード
3.場周経路図†1/2.5万)‥…・チャート
4.離着陸性能表
予   習
課   題
1.場周経路、諸元および操作手順
2.場周各レグの侮流修正量の計算
評   価 1.地上における操作手順の正確性
2.地上滑走は中心線を保持でき、速度は適正か。
3.離陸のためのパワー操作は円滑にできるか。
4.離陸前の滑走路中心線へのアラインと停止要領は正確にできるか。
5.離陸滑走中の中心線の保持は、おおむねできるか。

 ここに記した教授計画は、教育の骨子であり全体的な計画の概略である。したがって、実際の教育では、全般的な教育管理の手引きとして使用し、教授する細部内容は、別に準備しなければならない。細部説明用の資料は、離着陸の課目だけを例にとっても、ぼう大な量であるので、教官は自分なりのレクチャー・ノートを作ることをすすめたい。これは、形式や内容表現にこだわらず、自分が一番使いやすい形式や表現で整理すればよい。
 上表は1例であり、必要に応じて、教育の過程のなかの準備のところで述べた要点や質問事項などを適宜入れるとよい。

1−5 教育技術
 いかによい教育環境があっても、教官の教育技術が拙劣であれば、訓練生の知識や情報あるいは技術の伝達が阻害されたり、誤解をまねいたりして、教育効果はなかなかあがらない。しかし、教育技術は簡単に習得できるものではなく、教官の研究心と経験を積むことで、逐次改善向上するものである。そのためには、教官は日々の教育のなかで、不断に反省をし、改善向上を目指さなければならない。また、教育技術に関する知識をもっていても、その教官がその技術を実習によって、自由自在に駆使できなければ、意味がない。これと反村に、知識が皆無か乏しい教官が、いたずらに経験を積めば、教育技術が習得できるというものでもない。そこで操縦教官として知っておくべき主な事項について以下述べてみたい。

1−5−1教授計画の使用
 教授計画はすでに述べたように、教育の手引きとなるものであり、教育の大要を定めたものである。この教授計画を使用することによって、その教育の順序が統一性あるものとなるだろう。教官が教授する順序を間違えたり、訓練生に過度の要求をしたり、要点を見失ったり、時間管理が不統一になったりすることを防止するために、教授計画は不可欠のものである。
 しかし、教授計画は松葉杖ではない。教官は教える内容について完全に準備し、自信をもって教授できなければならない。教授計画や教育資料を一語一語読みあげるようなことにならないようにすることが大切である。
 だが、教官は教えることを全て記憶していなければならないということではない。要は内容を理解し、訓練生にいかに判り易く順序だてて説明するかが問題である。特に長い引用文や複雑な内容は教授計画に整理して、いつでも使えるようにしておくとよい。もし教官自身が課目の内容を完全に理解していなかったり、疑問があったりする状態では、訓練生の前に立ってはいけない。
 また、他の教官が作成した教授計画を使用するときは、事前に十分検討し作成者がどのような方針や考え方で教育しようとしているかを熟知したうえで、教育に臨む必要がある。

1−5−2 教具の使用
1教具の効果
 限定された時間内で、できるだけ大きな効果をあげるためには、教官は教具を有効適切に使用することが大切である。いわゆる教育の効率化のためには、各種教具は不可欠である。教具には実物や簡単な航空機模型から各種視聴覚教具、リンク・トレーナー、コックビット・トレーナー等沢山の教具が開発され実用に供されている。これらの教具は、教育の効率化や経費節減に大きく寄与している。特に多額の経費を必要とする大型輸送機や戦闘機では、今後ますます、フライト・シュミレーターの重要性は増大するであろう。
 これらは、現状ではあくまでも既成のパイロットに適用できるものであり、初めての操縦教育は実機によらざるをえない。これとて多額の経費を必要とするので、教官は常に教育の効率化のために教具の開発と使用法に創意をこらさなければならない。
 教官はたくさんの教具を自由自在に使用できなくてはならないが、そのためにはまずどんな教具があり、その使用法はどうかについて、十分な知識をもつことが肝要である。先にも述べたが、教具とは、訓練生の学習を側面から援助するために作られたすべての物をいう。教官が教具を適切に使用することは、訓練生の理解を容易にするのみならず、記憶を催す効果がある。
 なぜならば、学習は訓練生の感覚にうったえれば、それだけ効果的になるからである。単に言葉で説明しても、訓練生は具体的には握することは、極めて困難である。しかし、教具を使用することによって、聴覚に加えて視覚や触覚あるいは臭覚まで刺激することになり、訓練生の脳裡にそれだけ強くかつ多く作用をもたらす。訓練生の理解と記憶を促すことは、いかに多くの知覚器管を刺激したかということと比例関係にある。
 そのなかでも、視覚の刺激が最も効果的である。ある実験結果によれば、学習の約60%が視覚によって達成され、聴覚による効果は20%であるといわれている。
 また、教具使用の効果として、訓練生の興味を維持増進させることが可能である。興味の維持増進は、直接教育効果に影響する問題である。適切な教具を使用することによって、教育に変化をもたせ、訓練生に興味を起こさせる効果がある。
2 よい教具の条件
 教官は教育を効果的かつ効率的にするために、各種教具の作成と使用法に創意工夫をこらさなければならないが、その際には、次の諸点に留意すべきである。
 まず、教育や課目の目的に合致していること、使用する場所に応じて適当な大きさであることが必要である。各舵の作動状態を説明するのに、実物が使えないとき模型を使って説明する訳であるが、その模型が動翼の固定した模型であったり、小さすぎて見えにくかったりしたのでは、効果は半減してしまう。
 教具は訓練生の学習のために教官が使うものであるので、準備の段階で入念な検討が必要である。模型はできる限り実物に近いものが一番有効である。もし、そのような模型がえられないときには、教官の創意工夫によってよい教具を作る。例えば上の例で、動翼について説明するのに、実際動翼が作動する模型がえられなくても、紙をはりつけたり、塗色するだけでも、動翼の作動を具体的に説明できるような教具になる。教官の教育に村する熱意は、よい教具作成の源泉となる。
 チャートを使って説明する場合、訓練生全員がよく見える字の大ききで書くことが、いちばん大切である。また説明に必要な部分だけを見せるようにし、これから説明する事項は、紙を貼りつけて見せないようにしておくのもよい方法であろう。この場合、要点や強調する部分にはアンダー・ラインを引いたり、色彩を有効に活用するとよい。全部を最初から呈示すると、訓練生の注意力は強調している部分や説明している部分以外のところに分散し、集中力を欠く結果になる。
 また、よい教具の条件の一つとして、運搬に便利で取扱いが容易であることが必要である。模型等は実物に近いほどよいが、持ち運びできなかったり、余り精巧すぎて取扱いが困難だったりするものは、よい教具とはいえない。しかも教具は繰り返し使用するものであるから、丈夫で長持ちすることも、条件の1つである。
3 教具の使用法
(1)模型類
 教官は教授計画作成の過程で、課目の要点や重点が口頭説明だけでは、訓練生の理解がえられない恐れや時間がかかり過ぎると思われる場合には、それを補なう適切な教具を準備しなければならない。教官の創意工夫と熱意によって、簡単な教具でも大きな効果をあげるよい教具に改善することもできることを銘記すべきである。教官は教具の作成にも、熱心でなくてはならない。
 だが教具は数多くあればよいというものではない。教授する課目内容に適合した必要最少限の教具を準備するとともに、その使用法にも精通し、どんな教具を、どんな順序で使うかも教授計画作成の段階から準備する必要がある。訓練生の前で時間をかけてさがしたり、教具の使用法を間違ったりするようなことのないようにすることが肝要である。
 チャートや参考図書には、必要な箇所に線を引いたり、付箋をつけて、すみやかに呈示できなくてはならない。模型類は、使う順序ごとに机上にならべ、必要に応じ順次呈示し、呈示する以外のものは、できるだけ訓練生の日にふれない処置を講ずることが必要である。
 教官が教具を使用して説明する前に、教官は使用する教具の使用目的と特徴について、訓練生に簡単明瞭な説明を加えるべきである。例えば、「これはFA−200の模型です。プロペラや動翼は動きませんが、着陸時の返し操作に応ずる飛行機の姿勢変化の様子を、この模型を使って説明します。」というように、教育するとよい。もし、訓練生が教具使用の目的や特徴の理解が不足し、またはなかったりすると、彼等は自分勝手な想像をしたり、教官の説明と無関係なことを考えたりする傾向があるので注意すること。
 そして模型は、訓練生によくみえるようにし、かつ臨場感をもたせるために、訓練生の方に尾部を向けたり、説明内容によっては、真横から見せたりするのが効果的である。機首を訓練生に向けて、ピッチ・コントロールを説明したりすると、訓練生の理解を困難にしたり、ときには説明とまったく逆の理解をする恐れがある。
 また教官が教具を使って説明するとき、教官の視線は教具に集中することなく、訓練生の観察に向けられなければならない。教官は常に訓練生の理解状況や反応を観察することを忘れてはならない。これは黒板やチャート等あらゆる教具についていえることである。
 つぎに、大きなチャートや航空写真等を使用する場合、チャート棒を使って説明する箇所をはっきりと指し示すことが大切である。場周経路等の飛行経路を説明するときも、呈示する経路もあらかじめ描いておき、正確に経路に沿って示すべきである。指し示す箇所が不正確でいい加減だったり、教具をチャート棒で叩いたりすると、訓練生の注意は散漫になり、誤った理解をする。
 また、チャート棒を使用し終えたら、机の上に置き、みだりにふりまわしたり、訓練生をチャ
ート棒で指したりしてはならない。このように、すべての教具は使用するときに、訓練生の日にふれさせ、それ以外のときは彼等の目にふれないようにしておくのがよい。
(2)視聴覚教具
 操縦教育には、実際に体験できないがパイロットが是非知っておかなければならないことが沢山ある。たとえば、積乱雲の内部構造や状態、寒冷前線と乱気流、極度のハイポキシャ、空中火災、緊急着陸時の航空機の破壊状況等である。これらのことは、教官がいくら口頭で説明しても、なかなか完全には理解され難いが、パイロットとして知っておくべきことである。これらを理解させるための教具としては、映画が最も効果的である。
 視聴覚教具の使用によって、その教育は学生に感銘をあたえ、訓練生の学習態度は積極的なものとなる。また、何回でも同じ内容が呈示できる特徴がある。視聴覚の刺激によるこの種の教育は、訓練生に強い印象をあたえ、理解を容易にするばかりか、記憶を促す効果もある。
 例えば、教官が視聴覚教具を使った教育を計画する場合は、内容を事前に十分検討し、教官の教育意図にあったものを選定しなければならない。訓練生に呈示する前に、教官自身が内容を吟味し、要点や重点を整理し、全般的内容とともに訓練生に説明したあとで呈示する。
 また、必要があれば呈示の途中で説明を加えてもよい。教官は呈示が終ったら、内容の総まとめをし、重点の再強調、討議をさせるならば、そのテーマと討議の進め方、質問事項などを準備していなければならない。事前の説明をしなかったり、呈示後の説明がなく単に映画を観せるだけでは十分な効果は期待できない。視聴覚教具には、映画のほかにビデオ、オーバー・ヘッド・プロジェクター、スライドなどがある。
 特にビデオは最近ますます軽量小型で安価になってきたし、操作も簡単にできるよい教具としての条件を備えている。また、ビデオは教官が手軽にもち運んで自分の好きな内容を自由に作成する便利さがあるので、今後視聴覚教具の中心的存在になるであろう。

1−5−3 話し方
 教育活動の主たる部分は、教官が訓練生に話すことによって、知識を伝達したり、注意を促したりする行動であるといっても過言ではない。教官と訓練生が迅速で正確な意志疎通を図るものは、身振り手振りも大切であるが、そのほとんどは言葉である。教官の話し方が早口過ぎたり、難解な用語を多用したり、声が小さ過ぎたりしては、いかに豊富な知識と経験を有していても、教育にならない。有能な教官は、難しいことをやさしく話せ、かつ話し方のうまい教官であるともいえる。訓練生の知識の程度や経験の深浅に応じて、適切な用語でわかりやすく説明できなくてはならない。話し方にはその教官の人間性や熱意が直接でるものであり、訓練生におよぼす影響の大きいことを銘記し、研鑚しなければならない。
 教官が意志伝達の手段として「話す」ことは、その根底に教官の意志が作用する以上、教官の人間性、教育に付する熱意、訓練生に村する信愛の情、誠意、一般教養、課目に関する知識、服装態度等、教官の内的要素が大きく影響する。最もよい話し方は、このように影響する要因がたくさんあり、習得することは難しい。同じ顔がないように、同じ話し方もない。大切なことは教官自身が自己研鑚に努め教養を身につけると何時に、課目に関する知識を十分習得することが、よりよい話し方の基礎となる。課目に関する知識が不足したり、教養に欠けるようなことがあると、教官は自信ある態度で話すことができない。
 特に教養ある円満な人格をもった教官でないと、教官自身の知っていることだけを誇大に強調したり、訓練生の不勉強をなじったり、訓練生にだけ勉強を強要したりするような、教官として最も慎まなければならないことをする教官になりやすい。
 つぎに重要なことは、教育に村する熱意と誠実さである。教官は自分がもっているすべての能力を傾注して訓練生を立派なパイロットに育てようという情熱さえあれば、教育に関する大半の間遠は解決できるはずである。教官が訓練生に話すことは、訓練生の聴覚を通して、彼等の心に訴えることであり、訴える力は美辞麗句ではなく、教官の熱意に負うところが大である。教官が話すことによって、この熱意も訓練生に伝わる。既に述べたように、操縦教育は教官と訓練生の人間関係がより重要であるが、この人間関係を良くするか、悪くするかは教官の全能力が発揮される話し方の巧拙により大きく左右される。
 教官が単に口先だけで、参考書等を事務的に読むような話し方は、訓練生に何ら感銘を与えないし、訓練生の学習意欲を滅退させるだけである。教官は自信ある態度で、熱意と誠意をもってユーモアを混じえて話すことが大切だが、自信をもつためには上手な話し方の技術を知ることから始めるべきであり、そのためには話術についての勉強をすることも大きな仕事の1つである。
 例えば、自分の話し言葉をテープ・レコーダーに吹きこんでみて、それを再生して開くという
方法がある。それによって、話し方の矯正をすることができる。

1−5−4 訓練生と積極的に接触する
 教官が訓練生に向かって話すことは、教育の重要な手段の大部分である。しかも、その目的は教育しようとすることがらを正確に訓練生に伝え、理解させることである。このことをまず教官は、念頭におくべきである。そして、できるだけ平素から訓練生と積極的な接触を通して、相互の関係を確保しておけば、教官の話すことは、それだけ容易に伝達されるであろう。教室で講義をしたり、ブリーフイングをする場合は、次のことがらを守って、接触を確保するようにしなければならない。
1 訓練生の注意を集中させる
 まず、教官は訓練生との接触を確保するために、彼等の注意を教官に向けさせることから始めるべきである。訓練生の注意力が、別のところに向いているのに、教官がいくら熱弁をふるっても、訓練生に伝わるものではない。教官は、教官の話すことを懸命にきこうとする訓練生の姿勢が整ってから話し始めることが重要である。
 そのためには、訓練生が教官の話しを開くための準備、すなわち必要な筆記具や参考図書その他使用する教材等が用意きれていなければならない。そして彼等の視線が教官に注がれていることで、注意の集中の度合いが観察できるはずである。また、必要に応じて教官は、「みなさん、これからチェック・リストの使用法について説明します。」とか「みなさん、このチャートを見て下さい。」といって注意を喚起することも大切である。
2 訓練生の反応を確認する
 教官が熱意をもって、訓練生に理解させようという気持があれば、自然に訓練生の反応を見ながら話すようになるはずである。この教官の熱意は、教官と訓練生の人間相互間の接触となってあらわれるものである。教官が訓練生と接触すればするほど、訓練生一人ひとりが教官と大きなパイプで結ばれることになる。
 特に教官が黒板に字や図形を書いたり、その他いろいろな教具を使用するとき、教官は教具に向かって話を継続してはならない。必らず訓練生の反応を確認するために、彼等を見ていなければならない。訓練生の目の輝きや表情を観察すれば、彼等が興味をもって熱心に開いているか、そうでないかは判るはずである。訓練生が居眠りをしたり、よそ見をするようでは、課目内容か話し方に問題があるので、そのいづれに問題があるかを確認し、改善しなければならない。
3 会話調を用いる
 教官は話をする場所の環境にあった適当な音量と速度ではっきりと会話調で話すのがよい。訓練生に語りかけることは、それだけ訴える力が増すものであり、そのためには熱のこもらない演説口調や朗読調よりも会話調が有効である。また教官と訓練生の一体感をもたせるような話し方を推奨したい。たとえば、「私もみんなと同じように・‥…」とか「われわれ操縦を学ぶ者は……」とかである。
4 訓練生に関心をもつ
 教官は訓練生の学習のためのよき理解者であり、何でも相談し信頼できる人であると感じさせるように、常に彼等に関心をもって行動しなければならない。そして、訓練生と友好関係を保ちつつ、たとえ披等が愚問を発しても質問したことを称賛し、親切に指導する姿勢をもつことが肝要である。
 教官が課目に村する関心を持つと同様に訓練生にも関心を持てば、訓練生の学習意欲は自然に向上する。また、訓練生の氏名、性格および家族の状況等にも関心を示し、訓練生との親密感を促進することは大切なことである。授業中に教官が訓練生を指名するときでも、姓だけではなく名前まで覚えておいて指名すれば、それだけ両者の接触は緊密なものとなる。
 教官は話の途中で「今日の課目にはあまり関係ないが…‥」とか「大して重要ではないが…」などということは、絶対避けなければならない。教官が教育するために話すことは、訓練生が注意を集中して開くに値するものであることを彼等に認識させるような話し方で授業を始めるべきである。

1−5−5 教官にふさわしい服装、態度
 訓練生は教官の話の内容や話し方と同じように、見るもの、つまり教官の服装や動作に吋しても容易に影響を安ける。その影響は教官の悪いところほど真似たがる傾向がある。したがって教官は、服装や容儀を端正にし、正しい言葉づかいで、かつ蔽正な態度で話をする必要がある。訓練生は教官の特異な動きや話し方の癖に注意を集中しやすい。教壇の上を用もないのに行ったりきたりしたり、無駄に手足を動かしたり、話のつなぎに「エー」とか「アー」というようなことは、慎んで直すように努めなければならない。このように、訓練生が教官の特異な動作や話し方の癖に注意が集中すると、話の内容はほとんど伝わらない。したがって、教官はごく自然に行動すべきである。このことは言うのは簡単だが、実行することは実際に難しい問題である。特に悪い癖は自分ではわからないので、他人の助言をえて修正しなければならない。
 また、教官の話を強調したり、訓練生の意見に同意するときは、手や身体全体を使った身振りを入れることもよい方法である。特にわれわれ日本人は、身振りが日常生活の中で使われることがないので、意識的にや、オーバーに行なうぐらいで丁度よい。たとえば訓練生の意見に同意を示すとき、単に「その通りです」というよりも、腕と手でその訓練生を指して、うなづいて、「全く○○訓練生の意見の通りです」と強調して認めてやることが大切である。このことによって訓練生の学習意欲は向上し、教官に認めてもらおうと努力するようになるはずである。

1−5−6 判り易く話す
 最もよい教官の話し方は、難しい事柄でもやさしく訓練生の知識の程度で理解できるように話すことである。往々にして、教官は難しい専門用語を並べて、自己の知識を誇示することがあるが、訓練生が理解できなければ、その教育は無意味なものとなる。判り易く話すということは、内容の問題だけでなく、声の質、声量、速度、調子(間のとり方)、用語、発音、話す順序、形容詞や副詞の使用、例話などが適切でなければならない。
1 声の質
 人間はその人特有の声の質をもっているが、訓練生が最も快適に聞ける声質を見い出すように心掛けなければならない。ハイ・トーンの声は、一般によく通る声といわれるが、声量が同じであれば訓練生にはよくきこえる。しかしハイ・トーンの声で連続的に話されると訓練生は疲労感を覚える。この逆にロー・トーンの声は、通りにくいが訓練生は聞く上で楽に感ずる。いづれにしても一本調子で単調な話し方は、避けなければならない。ハイ・トーンとロー・トーンの声を適切に按配して話すことにより、単調さを回避できるはずである。単調な話し方をすると、訓練生は集中力を欠き眠気をもよおして退屈し、注意力が散漫になり易いので気をつけるべきである。
 また、機内でインター・ホーンを使ったり教室でマイクを使用するときは、マイクとの距離を適切にし、のりやすい声の質を見い出すことが大切である。
2 声量
 教官が訓練生に話をする環境は、航空機の擬音や他の教室の話し声がきこえるようなことが多く、決して望ましいとはいえない。従って教官は、まず訓練生に聞こえる声量で話をしなければならない。騒々しい場所で小さな声で話したり、静かな室で大声をはりあげるのは、教育上効果がない。適当な声量か否かを判断するためには、他人にチェックしてもらうか、訓練生の反応を観察していればわかるはずである。また、声量に大小をつけることによって、単調な話にならないですむことがある。
3 速度
 あまり早い速度で話すと訓練生の理解が追従できなくなり、遅すぎると彼等はイライラする。話す速度は、内容や訓練生の能力の程度によって異なるが、一般的には1分間に200〜300語の速度が適当であるとされている。話の速度に変化をつけることは、声の質の変化や声量の大小と同じように、話に変化をもたせることができる。特に訓練生が重要な筒所を記録するようなときは、ノートできる速度で話す。場合によっては、その部分を繰り返して話すことも大切である。そのためには、訓練生の行動を観察しながら、話す速便を調整することが必要である。
4 調子(適切な間)
「一本調子でダラダラと内容を整理せずに、思い浮かぶことをそのまま話すと、退屈な授業になってしまう。教官は話す内容を理解し易く整理して、できれば箇条的に話し、句切りを明確にしなければならない。また、話の調子は、声量の大小だけでなく、速度にも関係するが、句切りをつけること、すなわち適切な間が必要である。例えば、音楽も音の高低強弱の音符を並べて、それをダラダラと歌ったり、楽器で演奏しても、きく人に訴える力はない。楽譜には必らず休止符や速便の変化や藷の高低親弱があってはじめて、すばらしい音楽になるのと同様である。教官は話すことを職業としている落語家やアウナアンサーの話し方、その調了や間のとり方に学ぶべきである。
5 用語
 話すときの用語は、訓練生の知識の範囲内で、可能なかぎり平易な用語を使うように心掛けること。もし新しい用語を使うときは、その意味を十分説明し、訓練生の理解を容易にしなければならない。特に操縦教育では、訓練生が開いたことのないような特異な専門用語が沢山あるので、細心の注意が必要である。訓練生の知らない用語を使って、感心させようとしたり、教官の権威づけをしようとしてはならない。教官は訓練生に理解させる目的で話をしていることを忘れてはならない。課目が進んでくれば、それに応じて使用する専門用語も多くなる。すでに学習した専門用語とそうではないものを、はっきり区別するために、教官は課目に必要な専門用語ですでに説明したものを記録しておくと便利である。また、訓練生は専門用語を使用したがる傾向がある。したがって、教官が正しい用語の意味や使用法を説明していないと、彼等は自己流の解釈をしていたり、誤った使用をすることがあるので、十分注意しなければならない。
 教官の話し方が生き生きとして活気があると、訓練生も生き生きと学習するようになる。そのためには冗長な話し方を慎しみ、要点をまとめて、簡単明瞭な文章にして話すことも大切である。このことは、接続語や形容詞、副詞を使うな、ということではない。これらを適切に挿入することにより、教官の話はより活気あるものとなり、印象深くきかせることができるはずである。
 訓練生の理解と記憶を容易にするには、専門用語を含めて箇条的にまとめて、単純な文章で話すとよい。訓練生が既に学習して知っている内容を、クドクドと話すと説明の要点がボケてしまうばかりでなく、彼等は話を聞こうとする意欲が減退してしまうものである。
 教官が話すときの発音は正しくなければならない。方言やなまりは常日頃から矯正すべきである。たとえば、「し」と「ち」、「い」と「え」、「せ」と「しえ」などである。
6 順序
 また話す順序もあらかじめ整理して準備しておいた方がよい結果をもたらす。授業全体で話すことを順序だてることも重要だが、それ以上に大切なことは、一つのことを説明するとき、訓練生がその後の教官の話を期待し、興味をもつような話し方が重要である。そのためには、まず最初に問題を投げかけて、訓練生自身に考えさせてから話を始めたり、誉め言葉を最初にし、たとえば、「今日の○○訓練生の着陸操作は、昨日に比べて非常に進歩した」というようにして話を始めるとよい。それから注意すべき点を指摘する。
 同じ内容の話でも注意すべきことを長々と指摘した後で称賛するようでは、訓練生の話を開く態度は大きな差異が生じる。教官は自分が訓練生の立場にたって、まず言ってもらいたいことから話すようにする。
 特に操縦教育は危険がともなうので、教官がそのことを強調しようとするあまり、「君はあんなことをしていると死ぬぞ」とか「今日の君の着陸は非常に危険であった」というと、訓練生は恐怖感をもったり自信をなくしたりするので注恵しなければならない。
7 例話の挿入
 教官の話のなかに、例話を適切に挿入すると、訓練生は非常に興味をもつようになる。例話は話す内容にマッチしたもので、できるだけ実際にあった事実に基づくものの方が印象的である。同僚の訓練生が失敗したようなことを例にだして話すことは避けるべきである。その反村に、同僚の訓練生が成功したことを例話として話すと、他の訓練生を刺激したり、例にだきれた訓練生は自信をもつようになるので、このような例話は大いに活用すべきである。
 特に事故例などは、訓練生が具体的に想像できないので、写真や路面を使って話すとよい。事故調査委員会の報告書や事故例集を有効に活用すべきである。

1−5−7 質問の仕方
 教官は一方的にしゃべり続けるばかりでなく、適時適切な質問を発することによって、訓練生の理解の程度や正しく同化して記憶しているかを確認することができる。また、質問は訓練生の興味を喚起し、学習意欲を向上させる作用がある。加えて、質問は訓練生の学習を積極的にさせるだけでなく、教官の教育法の点検のためにも重要である。
 教官の話し方がいかに上手であっても、訓練生がみずから学習しようとする意欲が完全でなければ、効果はあがらない。
 しかし、教官が質問の方法や時期を間違えると、質問することによってかえって訓練生は無関心になったり、教官の熱意に不満をもったりする。だから、教官は質問の重要性を認識するとともに、その技術を習得することが大切である。特に操縦教育は、講義形式教育よりも会議形式教育の色彩の強い教育形態であるから、教官の発する質問や訓練生との対話は重要な要素であることを認識すべきであろう。
1 質問の効果
(1)興味の喚起
 質問することによって、訓練生は課目に対して積極的な関心をもち、その興味は倍加する。訓練生は他の訓練生が教官の質問に答える内容や態度に非常な関心を示すものである。教官はいたずらに難しい質問をして、訓練生を消極的にさせないよう注意する。そして授業を真面目に聞いたり、宿題や予習復習をきちんと行なっていれば、十分教官の質問に解答できる内容の範囲にとどめるのがよい。
 教官が質問することにより、自然に訓練生との間に対話が生まれる。このことは、相互の人間関係の確立に非常に有効であるとともに、彼等自身が授業に参加しているという喜びを実感することにより、課目に村する興味を喚起きせる作用がある。
(2)思考習性の習得
 教官が質問することによって、訓練生は必然的に思考し、要点をまとめて解答するであろう。これは、訓練生に正しい思考を習性化させる効果があり、学習に村する責任と学習の必要性を認識させることになり、ひいては学習意欲を向上させることになろう。
 訓練生の解答に付しては、どんな解答でも教官はそれを無視したり、けなしてはならない。なぜそんな解答になったのか原因を究明することこそが先決である。教官の質問の仕方に間違はなかったか、訓練生が質問の意味を間違って理解していないか、あるいは彼等の理解が不足しているのではないか、また教官の話し方や教育法に問題はないかなどを検討すべきである。訓練生が間違って理解していたり、理解していなかったり、記憶していないといったことに対する原因と責任は、教官自身にあることを銘記せよ。そしてその原因を究明したら、教官はその後の教育法を修正しなければならない。
 訓練生が正しく解答したときは、教官は少しでも彼を称賛しなければならない。これは訓練生の外的動機づけを増大させる効果があり、積極的学習を促すはずである。訓練生が正しい思考習性を身につけることは、操縦におけるヘッド・ワークを習得するうえでも大切なことである。
(3)学習態度と理解の程度の確認
 質問に村して訓練生が考え、それを整理して解答することによって、彼等の思考能力、整理能力および表現力を養成することができるとともに、学習態度を確認することができる。訓練生の学習態度、すなわち課目の必要性や熱意の有無は、教育の基礎的条件である。教官がいろいろ説明する際に、訓練生の反応を観察することなく、自分の計画だけに基づいて、授業をおし進めると、大きな間違いを犯すもとになる。教官は授業中たえず訓練生の態度を観察し、その結果いかんでは教授計画も変更せざるをえない場合もある。
 また、質問は訓練生の正しい理解や理解の程度を確認する最良の方法である。だから訓練生が解答するに際して、使用する用語や理解の程度を確認して、教官はその後便用する用語や説明の仕方および程度を変更する必要もあろう。
 特に操縦教育においては、知識を単に記憶しているだけでは、役に立たない場合が多いことを強調せよ。訓練生は長年の受験勉強のためか、理解することよりも、まる暗記しようとする傾向がある。このように、単に記憶していることは、実践や応用にはまったく役立たない。地上で聞いてみると解答できるが、空中でそのことが全然発揮されていないことが多い。そこで、教官は質問をするときに、訓練生が知識を完全に理解し同化したうえで、しかも体形づけて記憶しているかという観点に注意すべきである。
(4)知識や経験の確認
 訓練生は自分の過去の経験に基礎をおいて、学習する。すなわち、見たり、聞いたり、読んだり、行動したりして習得した知識や習慣が彼等の思考の基礎となる。訓練生の知識や経験が、思わぬよい発想をもたらすこともある。教官はこのようにお互の利益のためにも、彼等の知識や経験がどしどし授業の場で提供されるように指導すべきである。そのためには、訓練生が自由に、目的意識をもって自己の意見や考えを発表できるように、質問を駆使することが重要である。
(5)要点の強調
 課目には必らず要点がある。授業でこの要点を強調するのは当然であるが、更に質問することによって、この要点を強調し、訓練生の理解と記憶を促すべきである。課目の要点を強調し、それを質問によって確認した結果、訓練生が解答できなかったり、間違った解答をしたときは、もう一度正しく理解させるための説明が必要である。
2 質問の条件
(1)自的の確立
 質問には、教官のはっきりした目的がなくてはならない。目的には、訓練生の理解や記憶の程度を確認したり、要点を強調したり、興味や熱意の程度を確認したりすることなどがある。
 教官は授業が終了する間際や、ブリーフイングの最後に「何か質問はありませんか」と質問することは慎しまなければならない。なぜなら、教官が授業の終了を宣言することによって、訓練生の気持は、それまでの緊張感から解放され、学習に不向きな状態になるからである。そのような状態では、訓練生は質問したがらないものである。かりに、訓練生が質問したら、教官はそのために時間を延長するか、「今日は時間がないから、簡単に説明します」ということになり、これらのいづれも望ましいことではない。それ以上に訓練生は、ここで質問したら、この授業はいつ終るかわからないと思い、教官の教育に村する誠意に疑念をもつ結果になる。つまり、教官が訓練生に質問したり、訓練生の質問を求めるとさは、授業時間内で終るように、あらかじめ準備しておくことが重要である。単なる思いつきや、時間があるので質問するようなことがあってはならない。
 教官が訓練生に質問を求めても、彼等が質問しないときは、完全に理解しているか、全く理解していないか、あるいは教官の誠意に疑問をもっているかなど数多くの原因が考えられる。
 教官は教授計画作成の段階から目的をはっきりさせて、質問を準備しなければならない。質問事項は教授計画に直接記載する必要はないが、レクチャー・ノートの中の要所要所に設けておくとよい。質問することがらは、訓練生に理解させておくべき課目の要点や重点および難解な点、さらに新たに教授した内容の要約などである。
 訓練生の質問がないときは、教官から質問を発し、自分の教育法の適否を確認すべきである。
訓練生はよく自分で理解したつもりで、誤解している場合が多いので、教官は質問をして訓練生の理解を確かめる必要がある。
(2)質問の内容をはっきりさせる
 質問に村して訓練生が解答するとき、最も多い誤りは質問の答になっていないことである。すなわち、題意の把握が悪い例が一番多い。この種の誤りは、筆記試験においても見られるので、教官は問題作成にあたって、注意を払うことが肝要である。
 そこで、教官は設問にあたり、訓練生がとり違えたりしないように、彼等の知っている用語で判り易く、何を期待しているかをはっきりさせること。訓練生の能力を超えた質問もよくない。特に教えてもいないことを質問すると、訓練生は学習に対する意欲を減退させる。
 また、広範囲の知識を必要とする質問、種々の条件によって異なる解答がありうるような事項については、質問の前提条件を限定しなければならない。一度に二つ以上のことを質問したり、完全な解答のためには、他にいくつかの補足質問をしなければならないような質問も避けること。
(3)思考を促す
 教官が質問を発する場合は、「質問します」と言って訓練生の注意を喚起しておいて、全員に対して質問を発する。そして、解答の内容や量によって、考える時間を与え訓練生の考えがまとまった頃合を見はからって、指名する。教官が質問するときに、あらかじめ指名しておいて質問すると、指名された訓練生以外の者は、全く考えない結果になる。
 また、理解していなくても答えられるような質問は慎しむべきである。つとめて、「なぜ」、「どうして」、「どんなふうに」というようなきき方をせよ。「右か左か」、「イエスかノーか」で答えられるような質問は愚問であり、訓練生の理解の程度や記憶の確認には役立たない。更に、質問のなかに答があったり、答を暗示するような質問もよい質問とはいえない。
 訓練生は考える時間をかせぐために、「質問の意味がわかりません」とか「もう一度お願いします」と言う傾向があるので、教官は質問を何回も繰り返さない方がよい。
 教官は指名するとき一定の順序をつけたり、特定の訓練生に集中することのないようにしなければならない。
 訓練生の解答は、教官によって適切に評価され、不備な点は完全に補足されなければならない。
 訓練生が質問に村してする解答は、教官に対して解答するのではなく、全訓練生に向かってするように指導すべきである。教官と特定訓練生との会話になってしまうと、他の訓練生は注意が散漫となり、自分には関係ないこととして受けとり無関心になる。
 いづれにしろ質問は、訓練生の思考を促し、理解や記憶の程度を知るための有効な教育の方法であることを教官は銘記し、大いに活用すべきである。したがって、教官が質問の意義を理解し技術に精通することは、教育の成果を大きなものとする。これと反対こ、質問が不適切だと、訓練生の学習意欲を減退させたり、熱意をそう失したり、彼等の理解の程度を見誤ったりして、その教育に悪影響をおよほすので、特に注意することが肝要である。
 参考資料として
(1)学科訓練シラパス
(2)飛行訓練シラパス(飛行機)
(3)飛行訓練シラパス(ヘリコプター)  については他の参考図書により十分な学習を積んでおくことが大切である(例、「自家用操縦士受験の手引き」……航空振興財団発行)



▲このページのTOPへ