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三省堂 「新歳時記」 虚子編から
季語の資料として引用しています。

三月の季語

三月(さんぐわつ)
仲春、寒い寒いと思つてゐるうちに、三月の声をき
くと急に寛いだ気持ちを感ずる。北陸から東北にか
けてはまだ雪が深いが、南の国ではもう菜の花が咲
き、桃が咲き蝶が舞ふ。しかし北国でも三月ともな
ればさすがに木の芽はふくらみ、雪を起こして見れ
ば、ものの芽も現れてをつて春といふ心持を深くす
る。
「三月の雪に明るき港かな」 海扇
「三月の落書をよむ洞の中」 一羽

如月(きさらぎ)
陰暦二月の異称である。
「如月や佛の花に猫柳」 のぼる
「如月の駕に火を抱く山路かな」 虚子

雛市(ひないち)
日本橋十軒店は昔から雛市で有名であるが、今はさ
ほどの賑もなく、三越・松屋・松坂屋等の大百貨店
の雛売出しが盛んである。田舎町などでも古風な雛
市を見かけることがある。雛店。
「手のひらにかざつて見るや市の雛」一茶
「百姓の馬繋ぎけり雛の店」秋竹
「またもとの雛の店に立戻る」一帆
「雛市も通りすがりや小買物」虚子
広辞苑から。
ひな‐いち【雛市】
雛人形および雛祭用の調度を売る市。季・春
さて一句。
「雛市や足棒にして捜しけり」よっち

桃の節句(もものせつく)
五節句の一。三月三日は桃の花を押して雛に供へ
たり、桃花酒を酌みなどするので斯くいはれるの
である。五月の菖蒲の節句が男の子の節句なのに
対し、これは女の子の節句である。。初節句の家
等殊に祝ふ。
上巳(じやうし)。上巳(じやうみ)。桃の日。
「桃柳くばりありくや女の子」 羽紅

雛(ひな)
三月三日、女児の行末を意味だけでなく、行事と
しても雛祭は洵(まこと)にゆかしく美はしい。
立派な座敷の雛祭もいいが、また賎が伏屋の古め
いた揃はぬ勝の雛祭など、なかなか面白い。雛に
関連した季語は実に多い。
ひひな。雛遊。雛飾る。初雛(はつびな)。
古雛。内裏雛(だいりびな)。土雛。紙雛。雛壇。
雛箱。雛の宴。雛の客。雛の宿。雛流し。雛納め。
「草の戸も住替る代ぞ雛の家」芭蕉
「うまず女の雛かしづくぞ哀なる」嵐雪
「雛祭る都はづれや桃の月」蕪村
「蝋燭のにほふ雛の雨夜かな」白雄
「御雛をしやぶりたがりて這う子かな」一茶
「古雛の貌若くあはれなり」青嵐
「雛納一つ一つのなごりかな」もと女
「はしきよし妹背並びぬ木彫雛」秋櫻子
「満月の如き男雛の面輪かな」あい子
「もたれ合ひて倒れずにある雛かな」虚子
広辞苑から。
ひな【雛】
@孵化して間もない鳥の子。ひよこ。ひなどり。枕一
五一「にはとりの―の…ひよひよとかしがましう鳴きて」
A女児などの玩具とする小さい人形。紙または土を原
料として作り、多くはこれに着物を着せる。古く平安
時代からあり、初め立雛(紙雛)が生れ、室町時代には
座雛(人形雛)となり、江戸中期以後は今日の雛人形が
造られるようになり、雛祭に飾った。雛人形。ひいな。
季・春。
そこで一句。
「並び居る阿弥陀烏帽子の男雛かな」よっち

春の雪(はるのゆき)
吹く風もやや暖かくなつたかと思つてゐると、思ひ
がけなくぼとぼとと雪片の大きな雪が降ることがあ
る。しかし冬の雪と違ひ、溶け易く、降るそばから
消えて行つて中々積もらない。積つてもすぐ消えて
しまふ。淡雪(あわゆき)といふのは、この春の消
え易い雪を指すのである。
春雪(しゅんせつ)。
「湯屋まではぬれて行けり春の雪」来山
「傘ひらく手に降り消えぬ春の雪」行野
「大いなる春雪舞ひぬ傘の内」小翠
「物の芽にかゝり消えたり春の雪」菫子
「のうれんに淡雪ふりて消えにけり」あふひ
「春の雪黄色く灯る石灯籠」圭草
「人通りしげき温泉のまち春の雪」白茅女
「袖に来て遊び消ゆるや春の雪」虚子
さて今日の季題で一句。
「春雪や学生服の金ボタン」よっち

春雷(しゅんらい)
雷は夏に多いものであるが、それがまだ春のうちに
鳴るのをいふ。柔かな春にはためくのも趣がある。
そして余りいくつも続けて鳴らず、一つ二つで止ん
だりするのも春雷らしい。春の雷(らい)。
「こまごまの草花鉢や春雷す」春梢女
「春雷や布団の上の旅衣」元
「濡れし袖をあぶる火桶や春の雷」風生
「春雷や母を取りまく娘達」いち子
「もたれゐる窓に春雷の雨さつと」立子
「春雷や七面鳥は今赤く」梅女
「春雷や女ばかりの雛の家」虚子
さて今日の季題で一句。
「春雷や地の精霊もめざめ時」よっち

啓蟄(けいちつ)
土中に蟄伏して冬眠してゐた蟻や地蟲の類が春暖の
候になつて、その穴を出づるのをいひ、又啓蟄とい
つて直に穴を出る蟲をいふこともある。暦でも二十
四気に啓蟄といふのがあつて、丁度三月五日頃、蟲
類の穴の出る頃にあたる。
地蟲穴を出づ。地蟲出づ。蟻穴を出づ。地蟲。
「啓蟄のつちくれ踊り掃かれけり」禅寺洞
「水かへて啓蟄の亀覚めにけり」旭川
「蟻出るやごうごうと鳴る穴の中」鬼城
「穴出でむ虫のほのめきあきらかに」青畝
「風吹いてあゆみとどむる地虫かな」俳維摩
「地虫出て風に逆ひ歩きけり」草秋
「蜥蜴以下啓蟄の虫くさぐさなり」虚子
さて今日の季題で一句。
「啓蟄や弱い寒気に風が吹く」よっち

東風(こち)
張る、東から吹く風をいふのである。同じく春吹く風
ではあるが、「春の風」といふよりも、言葉がつまつ
てゐるだけに言葉のひびきから受ける感じが勁いやう
である。又春風といふよりもまだやや寒い感じもある。
強東風(つよごち)。朝東風(あさごち)。
夕東風(ゆうごち)。
「駕に居て東風に向ふやふところ手」太祇
「すし暖簾人出で入りぬ東風の吹く」あふひ
「わが胸に東風吹きわかれわれいそぐ」友次郎
「東風こゝに消え裏街をなほ路地へ」友次郎
「すねて行くをとめや東風の湖ほとり」友次郎
「東風吹くや耳あらはるゝうなゐ髪」久女
「夕東風や海の船ゐる隅田川」秋櫻子
「立騒ぎ乗る舟人や東風の濱」虚子
広辞苑から。
こち【東風】
(「ち」は風の意) 春に東方から吹いて来る風。ひがし
かぜ。春風。こちかぜ。季・春。
拾遺雑春「―吹かば匂ひおこせよ梅の花」
はる‐いちばん【春一番】
立春後、はじめて吹く強い南寄りの風。はるいち。
季・春
そこで一句。
「強東風や雨の粒打つ窓ガラス」

春めく(はるめく)
長い間の寒さも緩み初め、山川草木風物、すべてが
いきいきとして、春だなあ、といふ心地のする時分
のことである。
「春めくや庇の影の古障子」南風
「春めきて水かさましぬ吉野川」一春
「春めくと家のまはりの掃き掃除」武
「雨降れば雨も春めく昨日今日」未曾ニ
「春めくや立どまりたる弱法師」鬼雨
「春めきて小夜の客ある茶の間かな」静子
「春めきし山をそびらに新築す」いぬゐ
「春めきし山河消え去る夕かげり」虚子
広辞苑から。
はる‐め・く【春めく】
春の気候らしくなる。春らしい気配になる。季・春。
拾遺雑秋「霜がれの野原のけぶり―・きにけり」
そこで一句。
「装いも風も春めく里の道」よっち

春の山(はるのやま)
木の芽は吹き草は萌え、鳥は鳴き花は咲き、見るか
らに生気に溢れた山をいふ。自然遊山も多い。
「子供等の登り来るらし春の山」 立子
「春山の名もをかしさや鷹ヶ峰」 虚子

山笑ふ(やまわらふ)
春の山をいふのである。「臥遊録」」に「春山淡治にし
て笑ふが如く、夏山蒼翠にして滴るが如く、秋山明浄に
して粧ふが如く、冬山惨淡として眠るが如し」とあるこ
とから出て居る。
「馬叱つてそれから唄う山笑ふ」 秋灰
「腹に在る家動かして山笑ふ」 虚子
広辞苑から。
○山笑う
[画品、郭煕四時山「春山淡冶而如笑、夏山蒼翠而如滴、
秋山明浄而如粧、冬山惨淡而如睡」] 春の芽吹きはじめ
たはなやかな山の形容。冬季の山の淋しさに対していう。
笑う山。季・春。
そこで一句。
「風が吹き鳥が舞飛び山笑う」よっち

春の水(はるのみづ)
「春水満四澤」とある通り、雪解などで湖や沼に満々
と湛へ、或は豊かに流れる水は、冬涸のあとをうけて
一際柔かく豊かな春の水といふ感じが深い。水の春と
いふと大分詠嘆味が加はつてくる。春水(しゅんすゐ)
「春の水ところどころに見ゆるかな」鬼貫
「春の水山なき国を流れけり」蕪村
「重箱を洗ふて汲むや春の水」蕪村
「昼舟に狂女のせたり春の水」蕪村
「人おとにこけ込亀や春の水」太祇
「雪に折し竹の下行春の水」几菫
「しづかさや雨の後なる春の水」召波
「大堰やひろびろ落つる春の水」泊月
「濯女の身づくろひする春の水」王城
「一つ根に離れ浮く葉や春の水」虚子
広辞苑から。
はる‐の‐みず【春の水】‥ミヅ
春の、水量の多くなった川や湖沼の水。季・春
そこで一句。
「何もせずただ見つめるよ春の水」よっち

蜷(にな)

川や池などに棲む貝類の一種である。海蜷といつて海に
棲む種類もある。殻の長さ一寸足らず。黒褐色をしてゐ
て、筒状の螺層が長く、各螺層の中央に一列の小突起が
ある。春殊に多く、川底などに所謂蜷の道をつけながら
ゆるゆると這う。みな。
「筋引いて蜷の泊れる崖の裾」泉舟
「水垢ののりたる石に蜷澄めり」夏山
「動きしと思ひし蜷をながめけり」たけし
「水底に蜷の這ひたる月日あり」野風呂
「蜷の道一つ結んでありもする」一壷
広辞苑から。
にな【蜷・蝸螺】
@巻貝の一群の総称。カワニナ・ウミニナ・イソニナなど。
A古書や俳諧では、カワニナ類をいう。河貝子。〈色葉字類抄〉。
季・春
そこで一句。
「蜷歩き一二三四と調子とり」よっち

田螺(たにし)
蝸牛をやや長くしたやうな形で、殻は蒼黒色をして
ゐる。古い池や田などに棲んでゐる。冬は泥中に隠
れてゐるが、春、池や田等の表面に出て這う。殊に
田掻の頃、沢山出るので之を採る人が多い。田螺鳴
くといふが、ほんたうに鳴くのかどうかはつきり判
らない。
田螺取(たにしとり)。
「里人の臍落したる田螺かな」嵐推
「田にし鳴小田にたんぽぽ打ほけぬ」曉臺
「大風に羽織かむりて田螺とる」みどり女
「田螺掘る子に近づきし畦づたい」痴翁
「籠をもる小さき田螺や水に落つ」虚子

蜆(しじみ)
内海・河川・湖沼などの泥中に棲む黒褐色の小貝である。
砂地にすむものには橙黄色のものもある。肉は小味で、
殊に汐を食つてゐるものの方が味がよい。多くお汁にさ
れる。蜆採。蜆掻。蜆舟。蜆売。蜆汁。
「むき蜆石山の櫻ちりにけり」蕪村
「すり鉢に薄紫の蜆かな」子規
「蜆売値切れば吃る哀れなり」大文字
「腰紐に流せる桶や蜆堀」可志久
「とぎあげて漆のごとく蜆かな」諾人
「花にまだ早き京都や蜆汁」黙鳥
「蜆掻き鼻をつりゐる頬かむり」白星子
「蜆汁ぬくめて遅き朝餉かな」青袴
「ふるさとに旅籠住ひや蜆汁」橙黄子
広辞苑から。
しじみ【蜆】
シジミ科の二枚貝の総称。殻長二〜三センチメートル、暗褐色ま
たは漆黒色、内面は多少とも紫色を帯びる。淡水または
汽水産。肉は食用。わが国にはマシジミ・ヤマトシジミ・
セタシジミの三種あり、マシジミだけが胎生。しじみが
い。季・春。万六「住吉の粉浜の―開けも見ず」。
〈新撰字鏡八〉
そこで一句。
「愛妻や二日酔いには蜆汁」よっち

春田(はるた)
秋稲を刈つた跡に麦や野菜など作らず、春まで其侭
にしてある田をいふので、紫雲英の咲き拡がつてゐ
るところもあろうし、さざ波立つて水田が輝いてゐ
るところもあうう。よく春田犁(すき)・春田打等
といふ。仕事の都合とか、濕田(しつでん)や深田
等一毛作田が春田になるのである。
「みちのくの伊達の郡の春田かな」風生
「刈株に小草咲く春田かな」虚子

春の川(はるのかわ)
春雨や雪解水等で春の川は水嵩が増す。やがて落花
を浮べ筏が始まる。春江(しゅんかう)
「春川にこつこつ打ちぬ桶二つ」花囚
「春江や漕ぎまがりたる長筏」三昧
「牛曳きて春川に飮(みずか)ひにけり」虚子

諸子(もろこ)

形が柳の葉に似てゐるので、柳もろこなどともいはれ
る。体の上部には暗灰色、下方は白く、淡い鉛青色の
線が側面を走つてゐる。長さ二・三寸くらゐで、鮒や
たなごなどと共に子供たちと最も親しい雑魚の一つで
ある。春初めて捕れたのを初諸子(はつもろこ)とい
ふ。
「うたかたをあげてかたまる諸子かな」悟洛
「初諸子分けて少なくなりにけり」平陽
「筏踏んで覗けば浅き諸子かな」虚子

御水取(おみづとり)

奈良東大寺二月堂の行のうちの一つである。毎年三
月十三日の午前二時前後に行はれる。式は二月堂の
ほとりの良弁杉の下にある閼伽井屋の御香水を汲取
るのであるが、籠りの僧が、大松明を振りかざしつ
ゝ石段を馳せ上り、見上ぐる二月堂の回廊に打ち据
ゑ、淡々たる炎に廂も焦げんばかりの有様は、実に
壮観そのものである。水取。
「水取や提灯を借る東大寺」虚明
「水取や僧形も見ず詣で去る」爽雨
「水取の鐘の聞ゆる泊りかな」行々子
「水取や僧のたむろす影法師」六村
「水取や脛もあらはのお僧達」比古
広辞苑から。
お‐みず‐とり【御水取り】‥ミヅ‥
東大寺二月堂の行事。三月(もとは陰暦二月)一三日未
明、堂前の若狭井(ワカサイ)の水を汲み、加持し、香水と
する儀式。修二会(シユニエ)の行事の一。季・春
そこで一句。
「水取の上着を焦がす火の粉かな」よっち

涅槃(ねはん)

陰暦二月十五日は釈迦牟尼が入滅した日である。佛
祖統紀第三十三巻に「如来は周の穆王五十三年二月
十五日に入滅す、凡そ伽藍にありては必ず供を修し
禮を設く、之を佛忌といふ」とある。この日各寺院
では涅槃像を掲げ遺教経を読誦して涅槃會(ねはん
ゑ)を営む。今日では時候の関係で陰暦、或いは一
月遅れに行なう寺が多い。
涅槃図(ねはんづ)。寝釈迦(ねじゃか)。
涅槃の日。常楽會(じょうらくゑ)
「ねはん會や皺手合する珠數の音」芭蕉
「山寺や誰も参らぬねはん像」樗良
「大顔をむけたまふなる寝釈迦かな」夜半
「わが好きの猫がをらぬや涅槃像」月尚
「葛城の山懐に寝釈迦かな」青畝
「手拭をかぶりてまゐる涅槃かな」花笠
「足のうらそろへ給ひぬ涅槃像」茅舎
「紺碧の空に月あり涅槃像」虚子
広辞苑から。
ねはん‐え【涅槃会】
釈尊入滅の陰暦二月(今は三月)一五日、釈尊の遺徳
奉讃追慕のために修する法会。涅槃図を掲げ遺教経
を読誦する。更衣(キサラギ)の別れ。涅槃講。常楽会
(ジヨウラクエ)。季・春
そこで一句。
「厚揚げの精進食し涅槃の日」よっち

鳥帰る(とりかへる)
雁・鴨の類や、山雀・四十雀・鶸のやうな秋冬の候
に我が国に渡つて来た候鳥が、春北方に帰るのをい
ふのである。引くといふのも帰ると同じ意である。
鳥雲に入るといふのは、北地に帰る鳥の雲井遥かに
見えなくなつてゆくのをいふので、鳥曇はその頃曇
り勝の空をいふ。帰る鳥。小鳥引く。
「行春に佐渡や越後の鳥曇り」許六
「鳥雲に入る熊谷の塘かな」士朗
「鳥雲に帰る国なき鴉かな」瓦全
「吹浦(ふくうら)も鳥海山も鳥曇」漾人
「鳥雲に再び重き病かな」果采
「鳥雲に我は杖抱く渡舟かな」はじめ
「鳥雲にぶたはちよつぴり尾を巻いて」仰子
「どこまでも水の近江や鳥雲に」洛水
「鳥雲に入り終んぬや杏花村」虚子
広辞苑から。
○鳥帰る
日本で越冬した渡り鳥が、春になって北へ去る。
季・春
「この地にてやることやつた鳥帰る」よっち

帰る雁(かへるかり)
雁は秋分に寒地より来り、春分に帰るとせられてゐ
る。単に雁といへば秋の季のものである。雁は各地
に見られるが、東京付近では北葛飾郡の彦成村邊に
多く来往する。同じく北地に帰る鳥の中でも、雁の
別れは殊更にあはれ深いもののやうに思はれる。
帰雁(きがん)。雁帰る。行く雁。雁の別れ。春の
雁。
「雲と隔つ友にや雁の生わかれ」芭蕉
「順礼に打ちまじり行帰雁かな」嵐雪
「帰る雁田ごとの月の曇る夜に」蕪村
「風呂の戸をあけて雁見る名残かな」几菫
「行雁と啼かはしけり小田の雁」曉臺
「行雁やふたゝび声すはろけくも」爽雨
「はるかなる帰雁のあとを見送りぬ」あふひ
「美しき帰雁の空も束の間に」立子
「一本の枯木がくれの帰雁かな」虚子
広辞苑から。
き‐がん【帰雁】
春になって、北へ帰る雁。季・春
そこで一句。
「帰る雁飛行機雲の跡追いつ」よっち

彼岸(ひがん)
三月十八日から二十四日まで。世俗にも「暑い寒い
も彼岸まで」といふくらゐで、季節としては洵に好
適の候である。この気候のよい時に彼岸会と称し、
善男善女は寺院に参詣し、祖先の墓参りをする。彼
岸といふ語は梵語の波羅であるが、彼岸会のことは
印度及び中国にはなく、我が国に於てのみ古くから
行はれたものであるやうである。単に彼岸といへば
春の彼岸のことで、秋のそれは秋の彼岸、又は後の
彼岸といふ。
「彼岸まへさむさも一夜ニ夜かな」路通
「善根に灸据てやる彼岸かな」太祇
「剃りたての尼のつむりやお中日」氏人
「牡丹餅に夕飯遅き彼岸かな」虚子

暖か(あたたか)
心地よい、春の陽気の温暖をいふ。彼岸近くからそろそろ
暖かになる。ぬくし。
「あたたかな雨が降るなり枯葎」子規
「あたたかに投棄ててある箒かな」濱人
「折々にぽかりぽかりと暖し」蚊杖
「人寄せの大地に描く暖き」虚子

春炬燵(はるごたつ)
春になつて未だ使う炬燵をいふ。初春、炬燵から放
れ難い頃から炬燵もそろそろ疎んぜられるやうにな
るまで期間は稍々長い。
「めいめいのうしろ茶托や春炬燵」あきら
「喪を籠る母と二人や春炬燵」四宇路
「逢うことのつゞきし春の火燵かな」冬男
「嫌われてゐるとも知らず春炬燵」小蔦
「春炬燵まだ飽きもせで在りにけり」もと女
「静かなる日のかへり来て春炬燵」静子
「眼帯をかけてもの憂し春ごたつ」小時
「つき合にはひりて母と春ごたつ」杢生
「當らざる春の火燵の唯熟し」虚子
広辞苑から。
はる‐ごたつ【春炬燵】
春になっても片付けてしまわずに、まだ使う炬燵。
季・春
そこで一句。
「まだすこし置いておこうか春炬燵」よっち

雉(きじ)
昔から、焼野の雉子、夜の鶴といつて、わが子のために
は命を忘れる親の愛情の深さに譬へられてゐるやうに、
子を守ることの厚い本邦特有の鳥で春曉、裏山などで
「けんけん」と鳴く声などはいいものである。雄は横縞
の長い尾を持つてゐて美しい。性敏捷で山路などを通つ
てゐると、叢の中から飛び出して吃驚させることがある。
全く足元から雉が立つ慌しさである。雉子(きじ)。き
ぎす。雉打(きじうち)。雉笛(きじぶえ)。
「父母のしきりに恋し雉子の声」芭蕉
「雉打て帰る家路の日は高し」蕪村
「むくと起て雉追う犬や寶でら」蕪村
「顔かくす雉子に日のさす野中かな」闌更
「山道や人去て雉あらはるゝ」子規
「雉子撃つてたすきにおへる猟夫かな」布鼓
「雉子たつて杣現るゝ峠かな」一嵐
「雉立ちて小松許りの峠かな」虚子
広辞苑から。
きじ【雉・雉子】
キジ目キジ科の鳥。雄は顔が裸出し赤色。頸・胸・下面
全体は暗緑色。背面の色彩は甚だ複雑美麗。脚に距(ケヅ
メ)を有し、尾は長く多数の黒帯がある。雌は淡褐色で、
黒斑があり、尾は短い。低木林や草原にすむ。日本特産。
一九四七年国鳥に指定。今日では、大陸産で白い首輪の
あるものと同種に扱う。古称きぎす・きぎし。また広く
はキジ科の鳥のうち、雌雄異色で尾の長い大形のものを
いう。アジアにのみ産し、約五○種。なお、キジ目には、
キジ科(ウズラ・シャコ・ヤマウズラ)・ライチョウ科・
シチメンチョウ科・ホロホロチョウ科・ツカツクリ科な
どがあり、地上性の雑食性鳥類。季・春。伊勢「むめ
のつくり枝に―をつけて奉るとて」
○雉の隠れ
雉が頭だけを草中に隠して尾を隠さぬこと。一部分だけ
隠して、他の部分の現れているのに気づかぬ意で、「頭
隠して尻隠さず」の類。雉の草隠れ。
そこで一句。
「草叢の影に雉の番(つがい)かな」よっち

雲雀(ひばり)
冬の間は枯葎の間や薮の中などにをるが、春暖にな
ると、、空高く舞ひ上りながら朗かに囀る。雲雀笛
(ひばりぶえ)は雲雀を誘ふためにその鳴く音を擬
して作つた笛である。揚雲雀(あげひばり)。落雲
雀(おちひばり)。夕雲雀(ゆうひばり)。雲雀野
(ひばりの)。雲雀籠(ひばりかご)。
「雲雀より上にやすらふ峠かな」芭蕉
「朝凪やただ一すぢにあげ雲雀」杉風
「夕尚あがる雲雀のある許り」虚子

燕(つばめ)
軒や梁等に巣をかけるので親しみ深い。背は真黒で腹白
く、喉は栗色である。尾は二つにわかれてやや長い。飛
ぶことが極めて早い。春の彼岸頃に来て、子を育て、秋
の彼岸頃暖かい南国へ帰る。乙鳥(つばめ)。つばくろ。
つばくら。つばくらめ。燕来る(つばめきたる)。
「蔵並び裏は燕のかよひ道」凡兆
「あそぶともゆくともしらぬ燕かな」去来
「古き戸に影うつり行燕かな」召波
「雨晴れて燕並ぶ垣根かな」士朗
「つばくらめ来そめし門を掃きにけり」とよ子
「電柱はかしぎ燕は翻る」新
「燕のゆるく飛び居る何の意ぞ」虚子
広辞苑から。
つばめ【燕】
@スズメ目ツバメ科の鳥の一種。背面は光沢ある青黒色で、
顔・のどは栗色、上胸に黒帯があり、下面は白色。尾は長
く、二つに割れている。わが国には春飛来し、人家に営巣
して、秋、南方に去る。なお、ツバメ科の鳥は、全長二○
センチメートル前後。翼が良く発達し、速く飛びながら昆虫を捕
食。世界に約八○種、日本にはコシアカツバメ・イワツバ
メなど五種が分布。ツバクラ。ツバクロ。ツバクラメ。玄
鳥。季・春。万一九「―来る時になりぬと」
A燕算用の略。胸算用一「毎月の胸算用せぬによつて、―
の合はぬ事ぞかし」
B年上の女にかわいがられている若い男。「若い―」
そこで一句。
「見上げるとやはりこの鳥つばくらめ」よっち

春雨(はるさめ)
春雨といふ言葉には、艶やかさ、情こまやかなもの
などを感ずるのであるが、しかしそれ等のものにこ
だはつてはいけない。草木の芽を育て、花の蕾を綻
ばせる春雨の感じは、一面しつとりとした味を持つ
てゐる。いつまでも降り続けば春霖(しゅんりん)
といふ。春の雨(はるのあめ)
「春雨や蜂の巣つたふ屋根の漏」芭蕉
「春雨や小磯の小貝ぬるるほど」蕪村
「春雨や昼間経よむおもひもの」太祇
「文ぬれしことわりいふや春のあめ」召波
「春雨や猫に踊ををしへる子」一茶
「宇治川やほつりほつりと春の雨」子規
「春雨や火鉢にかざす旅衣」華女
「大仏は垂れ頬におはす春の雨」梅史
「大寺の屋根の起伏や春の雨」立子
「ほのぼのとあかねながらや春の雨」石鼎
「休み日によくふることよ春の雨」三千女
「春雨やすこしもえたる手提灯」虚子
広辞苑から。
はる‐さめ【春雨】
@春降る雨。特に若芽の出る頃、静かに降る細い雨。
季・春。万一七「赤裳の裾の―ににほひひづちて」
Aうた沢・端唄の一。二上りで、最も流行した曲の一。
B(中華料理に使う粉条(fentiao)を、その形状から名
づけた) 緑豆(リヨクズ)の澱粉から作った透明・線状の食
品。ジャガイモ・サツマイモの澱粉からも作る。とうめん。
そこで一句。
「引越しの青いシートや春の雨」よっち

春泥(しゅんでい)
春のぬかるみである。雨にかぎらず凍解け・雪解け
などで泥濘もはげしかつたりするので、春の泥には
特別の季感が伴う。春の土。
「石の上引きし轍や春の泥」指月城
「春泥にふりかへる子が兄らしや」汀女
「ほがらかに鍬に砕けて春の土」旭川
「鴨の嘴(はし)よりたらたらと春の泥」虚子

ものの芽(もののめ)
春萌え出る諸々の芽をいふ。何やら芽といふ心
持である。
「大鐘のひびきの中の物芽かな」湯雨
「ものの芽のほぐれほぐるる朝寝かな」たかし
「ものの芽の一つ一つに春の神」冷石
「ものの芽のあらはれ出でし大事かな」虚子

草の芽(くさのめ)
春萌え出づる諸草の芽をいふ。名草の芽(なぐ
さのめ)といふのは名の有る草の芽をいふので
ある。たとへば菊・朝顔・萩・桔梗・菖蒲・芍
薬・百合等。
「草の芽や山羊に食はせて手紙なし」緑堂
「おほばこの芽や大小の葉三つ」素十
「名草の芽や各々の札の下」虚子

耕(たがやし)
耕といふのは田鋤・畑打等と或る限つた場合でなく、田
や畑等の土を掘り返し軟化して種を蒔いたり苗を植ゑる
のに適するやうにする総ての場合をいふので、方法や場
所を問はない。耕人(こうじん)。耕馬(こうば)。
耕牛(こうぎゅう)。
「耕や鳥さへ啼ぬ山陰に」蕪村
「昼火事に耕人田より走りけり」ミサヲ
「鞭あげて耕馬の歩調そろひけり」王城
「耕しの鍬が光れば麦もまた」としを
「耕の鍬さしのべてこちを見る」虚子

田打(たうち)
秋稲を刈つた後を其侭にしてある所謂春田を、牛か
馬に鋤を牽かせて土を鋤き返し、其鋤返された大塊
をまんが等で打ちくだき土をほごすのをいふので、
姉さん冠りの娘さんが男にまじつてせつせと働いて
ゐるのは随所に見られるところである。田を鋤く。
「ニ渡し越えて田を打ひとりかな」一茶
「股も張りさけよと許り打つ田かな」土音
「子守りより田打が好きや老の春」芳水

畑打(はたうち)
春彼岸、八十八夜頃は最も多く物種を蒔く季節なの
で、蒔くべき畑を打つことが多い。広い畑を一人で
鋤を上げて打つてゐるのを見ると気長い事のやうに
思ひもするが、夕方になると、ちやんと打ち上げて
帰つてゆく。山畑等にふと畑打が出てゐるなどにあ
ふのも親しみが深い。
「うごくとも見えで畑うつ男かな」去来
「畑うつや道間人の見えずなりぬ」蕪村
「足元に海動きゐる畑を打つ」弓人
「畑打つや土よろこんでくだけけり」青畝
「ただ一人い山に向ひて畑打つ」虚子

花種蒔く(はなだねまく)
秋草の種を蒔くことで、一般の家庭では、花壇・前栽・
土鉢の類にぢかに種を蒔いたり、蜜柑の空箱などに土を
入れ、油粕を交ぜてそれに種を下したりする。春の彼岸
前後に播くのが普通である。
「天津日の下に花種蒔きにけり」渓石
「花種を蒔く古妻や児等左右」泊雲
「こまごまと花種まきぬ縁高し」果采
「好きずきの花種蒔きし夫婦かな」青師
「上草履おろして蒔くや花の種」樫子
「花の種土のうすさにはや見えね」汀女
今日の季題で一句。
「われ土を妻は花種蒔きにけり」よっち

木の芽(このめ)
春の木の芽の総称である。きのめともいふ。芽とい
ふものは一見単調なもののやうでゐてそれぞれに特
色があり味ひの深いものである。芽立ち。木の芽時。
木の芽風。木の芽吹く。
「大原や木の芽すり行牛の頬」召波
「木の芽してあはれ此世にかへる木よ」鬼城
「晴天に苞押しひらく木の芽かな」久女
「芽ぐむなる大樹の幹に耳を寄せ」虚子

芽柳(めやなぎ)
柳の芽は目の中でも特に趣が深い。春先吹く風も軟
かくなり、垂れた柳の糸毎に一杯ぽつぽつと芽をつ
けるのは春だなあとの感じを催させるに充分である。
芽が次第に太り、ほぐれかゝるまでの芽の変化も面
白い。芽ばり柳。柳の芽。
「水門の一本柳芽ぐみたり」是山
「芽柳やかたまり流る家鴨の子」素山
「吹かれては芽柳欄に載るもあり」瑩風
「芽柳の吹かれてもどるときゆるし」草也
「芽柳に夕焼うすき賀茂磧」緑二
「退屈なガソリンガール柳の芽」風生
「芽を吹きて柳もつるゝこと多し」虚子
さて広辞苑から。
め‐やなぎ【芽柳】
芽吹柳(メブキヤナギ)・芽張柳(メバリヤナギ)に同じ。季・春
めぶき‐やなぎ【芽吹き柳】
早春、芽の萌え出た柳。芽柳。
めばり‐やなぎ【芽張り柳】
早春、芽の萌え出ようとする柳。芽柳。
そこで一句。
「芽柳や合格万歳校舎前」よっち

目刺(めざし)
鰯などを一寸振塩をして、四尾くらゐづつ目に竹串
を通して一聯とし、生乾や固乾にしたもの、鰯が抜
けないやうに串の両端にかけて藁で括つてある。焼
いておかずにする。
「住みつかでまた引越や目刺焼く」拐童
「独り焼く目刺や切にうち返し」温亭
「時すぎし昼餉となりぬ焼目刺」あきら
「古妻と話もなしや焼目刺」躑躅
「尋常に過ぐる日嬉し焼目刺」躑躅
「わだつみの色をとどめし目刺かな」桐蔭
「目刺焼く妻に不憫をかけにけり」暁水
「焦がしたる目刺にめしのよごれけり」暁水
「並べ焼く目刺に境ありにけり」虚子
そこで一句。
「引越しはもう沢山だ目刺食う」よっち

鯡(にしん)
まいわしに似て形が大きく、肋骨に卵形の歯帯があり、
上部は暗色で側部及び下部は淡色である。春の彼岸頃か
ら産卵のため沿岸に群來し、潮の穏やかな海辺の藻の中
に卵を産み、終わると再び外海に出る。大体時期を定め
間隔をおいて群れ来るもので、この時期よつて、走り鰊・
中鰊、後鰊などと称せられる。その終りは八十八夜前後
であるといふ。鯡曇は鰊の捕れる頃どんより曇る空合を
いふ。鰊、鰊群來(にしんくき)。
「どんよりと利尻の富士や鯡群來」誓子
「方丈の障子の外の鰊棚」雨意
「鰊炊くけむりのなかの増毛湾」句雨
「親方のあれが妾や鰊群來」夢城
「若い衆とたはけて婆々や鰊さく」駄々子
「鰊群來かならず時化を従へり」圭洞
「女等のむすび食ひつゝ鰊負ふ」不倦堂
「汲んでゐる鰊を盗む鴎かな」雨圃子
「鰊くさき雨が降るなり礼文島」黙堂
今日の季題で一句。
「鰊群來海が湧立つ舟がでる」よっち

椿(つばき)
北海道には自生の椿はないといふが其他の地方は
椿を見ぬといふ所はない。桜や山吹のやうに花び
らだけが散ることなく、花全体が地に音を立てて
落ちるのが特徴で幽(しずか)である。京都の椿
寺は老樹の椿で有名であり、伊豆大島が椿の名所
であることも洽(あまね)く人の知るところであ
る。玉椿は椿の美称。山椿。薮椿。白椿。乙女椿。
八重椿。つらつら椿。落椿。
「うぐいすの笠おとしたる椿かな」芭蕉
「落ざまに水こぼしける花椿」芭蕉
「暁の釣瓶にあがるつばきかな」荷兮
「椿落て昨日の雨をこぼしけり」蕪村
「古井戸のくらきに落ちる椿かな」蕪村
「赤門に入れば椿の林かな」子規
「岩すべる水にうつぶす椿かな」素十
「大雨の流れし跡や落椿」立子
「日あたりに掃き出されたる椿かな」三猿郎
「みんなみの海湧立てり椿山」たかし
「落椿呑まんと渦の来ては去る」蓼汀
「この後の古墳の月日椿かな」虚子
今日の季題で一句。
「椿落ち赤絨毯の上り道」よっち

卒業(そつげふ)
学校は概ね三月末に卒業式がある。これらの卒業生
は勿論年齢も境遇も色々であるが、所定の学業を修
了したといふ安堵と歓喜とは同じい。同時にまたい
よいよ親しい母校を去るといふ、嬉しい中にも一種
淋しいやうな感じも伴ふであらう。
「卒業子惜まれ土著するべかり」水歩
「卒業や平八渡舟今日限り」雅舟
「喜んでくれる父母なく卒業す」都穂
「卒業の面をあげてうたふなり」梨辻子
「泣いてすむ子の落第や母やさし」いはほ
「これよりは亡き母代り卒業す」隆代
「一を知つて二を知らぬなり卒業す」虚子
さて今日の季題で一句。
「卒業や学生服の金ボタン」よっち

霞(かすみ)
春になると常よりも多く山野にたち罩(こ)める。
朝霞・昼霞・夕霞・遠霞(とほがすみ)・薄霞・
棚霞、又鐘霞む・草霞む等ともいふ。
「春なれや名もなき山の朝がすみ」芭蕉
「夕暮や嵯峨をうしろに鐘霞む」子鳳
「いつの間に霞みそめけん佇ちて見る」虚子

陽炎(かげろふ)
春、うち晴れた日に、地上、屋根等からちらちらと
焔のやうに水蒸気の立騰るのをいふ。
絲遊(いとゆふ)。
「かれ草やややかげろふの一ニ寸」芭蕉
「絲遊にほどける艸(くさ)の葉先かな」白雄
「陽炎や扇を敷きて寝たりけり」一茶
「かげろふの中に遊べる雀かな」貞江
「陽炎に包まれ遊ぶ子供かな」虚子

土筆(つくし)
杉菜の胞子茎である。日当りのよい畦や土堤や芝原
などに生える。頭の先は筆のやうな形をして一節毎
にしやかしやかした黒い蓑のやうな皮―袴といふー
をつけてゐる。土に在るときは頭からこの袴が重な
り合つてかぶさつてゐる。だんだん伸びてゆくと茎
の一節々々の間が長くなる。茎は薄肉色をしてゐる。
長けてくると筆のやうな頭もがらがらに透き通つて
ほほけてしまふ。嫩(わか)い内に摘んで茹でて食
ふ。つくづくし。つくし摘む。
「つくつくし摘々行けば寺の庭」野梅
「つくつくしほうけては日の影ぼうし」召波
「あだし野も更行土筆かな」白堂
「佛を話す土筆の袴剥きながら」子規
「まま事の飯もおさいも土筆かな」立子
「土筆摘むまた来る牛に児をかばふ」蓼雨
「妹よ来よここの土筆は摘まで置く」虚子
さて、土筆で一句。
「汽車旅の時間合わせにつくし摘む」よっち



菫(すみれ)
可憐なつつましやかな花である。紫にうつむいて咲
く。菫草。花菫。菫野。
「山路来て何やらゆかしすみれ草」芭蕉
「明けぼのや菫傾ぶく土龍」凡兆
「蝶去つて菫の花ののこりけり」一浦
「鉛筆で仰向け見たり壷菫」虚子

蒲公英(たんぽぽ)
薊(あざみ)の座のやうに葉の先がぎざぎざに切れ
て柔かいうす緑した葉が、重なり合つて大地にへば
りついて生えてゐる。其真中から茎を抽いて鮮やか
な花をつける。花は多辯で概ね黄色であるが、稀に
白いのもある。実は白色の冠毛を生じ、風に乗つて
とんで行く。鼓草(つづみぐさ)ともいふ。
「蒲公英の群れ咲ける水邊かな」北湖
「蒲公英や日はいつまでも大空に」汀女
「蒲公英につながぬ馬の手綱かな」虚子